こんにちは!最近、秋晴れが気持ちいいですね。元気よく半袖で出かけたら、外で半袖の人を一人も見かけなくて、日傘を深めに差して歩きましたとさ。
さて、おでん文庫の10月の本棚テーマ”おくりもの”の本紹介は、今回でラストになります。
『きんいろのとき』
アルビン・トレッセルト 文 ロジャー・デュボアザン 絵 江國 香織 訳
アルビン・トレッセルトとロジャー・デュボアザンのふたりの絵本『きりのなかのかくれんぼ』が好きで、ふたりの作品を辿っていたときに出会ったのがこちらの絵本でした。訳は江國 香織さんということで、読む前から期待も高まってしまいます。
『きりのなかのかくれんぼ』では、訳を片山 令子さんが担当されていて、この訳者ふたりがなんだか選ばれるべくして担当されたように思います。共通して感じるのが、言葉のふくみのふくよかさです。
江國 香織さんの小説では、登場人物が、言葉を聞き流さずに、一度立ち止り、確かめるように繰り返す瞬間があると感じることがあります。
日常で知らない言葉が突然出てきたときに、なんだろうと思うことはありますが、深く考えずに聞き流すことが多いので、こうして言葉に立ち止まる姿というのは、自分にとっては特殊に感じます。その言葉からどんなことが頭に浮かんでいるのか、想像もできない(くらい自分は考えが浅いのです…)です。まるで友達が突然空を見て静止しているのを不思議に見ている構図のよう。
そうした言葉のふくよかさを江國 香織さんは立ち止まってよく観察をしているからこそ、文章を読むときに、グレープフルーツという言葉ひとつが出てきたとき、それが例えばみずみずしさを持っているような画を難なく想像したりと、普段気にも留めない言葉ひとつにも、読者も同じく一瞬でも立ち止まって想像を広げさせるところがあるように思います。
片山 令子さんも同じくで、絵本のような難しい言葉は使わず、絵本のような短い言葉からでも、優しい音が聞こえてきて、肌触りがあるような、そうした呼吸のできる空間を作っているのを思うと、言葉がふくよかです。片山 令子さんのエッセイを読んだこともあり、そこから自分が想像するのは、ご本人が一度本の中(想像の世界)に立って、呼吸をして、歩いて、香りを嗅いで、と、空間の中で過ごしてそのときに感じた言葉が生まれてくるという流れです。
江國 香織さんは、言葉から想像が広がり、片山 令子さんは空間から言葉が生まれてくる、と考えていて、どちらもやり方は異なりますが、言葉ひとつのふくよかさが、読んでいる方も伝わって言葉に感じ入り、それはゆったりとした時間を与えてくれているように思います。うさぎとかめの追っかけっこでいう、日常のうさぎに対してかめの速度を体感しているような気分です。そういう、うっとりとした気持ちになれる絵本、いいなぁと思います。
今回紹介する絵本の作者も、きっと言葉を大事にしていたはず。子どもの本の編集の仕事に携わっていたそうなのです。原文でもいつか読みたいのですが、翻訳された言葉も味わい深いのでおすすめです。
そしてこの本でもうひとつ、見どころと思っているのが「色」です。タイトルが『きんいろのとき』とあるので、読んだことのない状態のときは、どうやら秋のことを書いているようだ、ということは、赤や黄色・茶色あたりが賑やかなのかなと想像していました。実際に読んでみると、秋から冬に移り変わる、そうした季節の変わり目の変化も含めて描いており、想像以上に見開きページが飽きもしないカラフルな構成になっています。
最初に読んだとき、どうしてこんなにカラフルなのかびっくりしました。というのも、頭ごなしに季節の変化を微細に感じ取るのは日本の特徴だと思っていたので、ひとつの季節をアメリカの作者がさまざまな色で切り取って描いていることに、このとき自分の短絡的なものの見方に気が付いてちょっとだめだなと思ったりしたのでした。
しかし、どうしてこんなにカラフルなのかを更に考えてみると、子どもの絵本であることの意味を考えたらしっくりときました。読者にとって身近な周りのもので、この絵本を通じて色を知るということができるのです。そうしたときに、明確な、赤・黄色といった、初めて買うクレヨンにありそうな色を使っていることも、しっくりきました。
言葉に味わいごたえがあって、めくるめく鮮やかな色使いを前にして、そうした機能的な面に意識が全く上がってきませんでした。そうして考えがまたひとつ出てくると、この絵本の見え方も広がってきます。
しかしまずは、実際のアメリカの季節を目で見て、どんな色か知りたい。いつか海外で1年以上暮らしてみたいものです。そんな中で図書館にたくさん通いたいです。
さてさてこれで本の紹介は以上になります。『きりのなかのかくれんぼ』については過去に記事にしているので、もしよかったら合わせてご覧ください。絵については、はっきりとタッチが違うので、同じ人が描いていると気づけなかったです。アメリカのどこかの港町なのかな…と想像を膨らませて読みました。霧のなかにつつまれた港町の3日間が描かれています。
見えないものを教えてくれる霧の中の絵本 - おでん文庫の本棚
次回はおそらく11月の本棚テーマの紹介です。こちらも好き揃いです。また次回もよろしくお願いします。
---
おでん文庫のリアル本棚については下記よりご確認いただけます。
【おでん文庫】10月のテーマ ”おくりもの" - おでん文庫の本棚
おでん文庫の活動を応援していただけたら嬉しいです!
↓↓↓