おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

レモン色のお月さまが子どもを優しくつつむ夜

 こんにちは!いつも先に本文を書いてから、ここの前置きのような文章を書いているのですが、今回の文章はこってりかもしれません。7・8月の本棚テーマでひとりの作者を取り扱ったこともあり、なんだか自分の中で山下さん像が作り上げられてしまった文章になりました(汗)。いろんな考え方、物の見方があると思うので、私自身決めつけないように気を付けていつつも、人からAの意見を聞くことで、違うBが浮かんでくることがあることを思うと、つらつら自分の考えを書いていくことが新しい考えを生むのかな…と前向きな期待を込めて。十人十色で感じ方・考え方はいろいろあることを、本を読んでいると思うようになります。世界が広いと分かることに安心感を抱くのは、ここ最近初めての心境です。

 

 と、話がどんどんそれていきそうなので。本日紹介するのは、7・8月の本棚テーマ【ここにある海】でも紹介をした山下 明生×渡辺 三郎の絵本です。

 

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 『いい ゆめを』

 山下 明生 作 渡辺 三郎 絵

 

 絵が良いです~。9月の本棚テーマ【月さんお星さん】になぞらえて、月と星(星は意外なところから出てくるかも)が登場する物語です。中心となるのは、表紙のレモン色の月になります。

 

 『いいたび ボンボン』という以前紹介した本の連作となっていて、『いいたび ボンボン』は今回紹介する本の後に出た作品になります。記事については下記からご覧いただけます。

ボンボヤージュ!ベッドの船が出航します - おでん文庫の本棚

 

 この連作は、作者が好きなフランス語を物語の種にして、広げていったものです。今回は<Beaux rêves>(ボーレーベ)=「よいゆめを」が題材となっており、前作の冒険物語とは違った趣で描かれています。自分がこのブログで紹介している山下さんの本とは違うのは、題材となっている主要な部分の違いからきているように思います。

 

 これまでブログで取り上げた作者の作品については、海をさまざまな切り口で紹介をしているのが印象的でした。海をとりまく人々の暮らし、海の生き物、航海の旅と、海を中心に据えていることで、作品を読んだときに作者が持っている海のイメージが読者の中に入ってくるのです。

 

 『ふとんかいすいよく』では、海に行けなかった子どもが家の中でお布団を使い、お父さんと楽しそうに海水浴をする姿がみられたり、『うみのしろうま』では、海と命の綱引きをするヒリヒリする展開があり、ハリネズミ・チコ」シリーズでは、チコが知らない海の世界を船で冒険するワクワク感があります。

 

 こうして描いていると、海というものが前進するもの、飲み込む、好奇心を打つといった動的な面を持ち合わせた存在としてかたち作られているのが分かるのですが、今回は、波風の立たない静かな海が現れます。どうしてなのかというと、ここでは主題が「月」になっているからだと思われます。

 

 個人的な想像ですが、海が主役になっていたら、海の波に揺られる船の上で、もしくは海に生きる生き物たちが夢を見るような物語になっているような気がしました(生ぬるい想像力で恐れ入ります)。

 

 話は飛びますが、例えば宮崎 駿監督のこれまでの作品は、自然破壊の危惧を訴えかける作品だったり、ただただ好きなものを描いたり、子どもがこれからどう生きていくかを示したりと、描こうとするものにまずテーマが生まれて、そこが出発点になります。驚くのは、その時々に合わせて世界を新しく構築していくことです。テーマからどんどん足元が決まっていくような、白紙の紙から絵が生まれてくる印象です。

 

 それが、この絵本の作者の物語の誕生を私が想像するときは、まず海があることが大前提です。海の水平線から物語が上がってきています。もしくは波が運んできます。作者が海のイメージをたくさん抱えているからこそ、生まれてくる作品が海を切り口に多彩に繰り広げられているのだと思います。

 

 でもそれだけ、ひとつのものをよおくじっくりとみつめて、感じとる作者が「いいゆめを」という言葉から選んだのが「月」ということになります(あくまで自分の感じ方ですが…!)。

 

 とてもあたたかい、父親のようなまなざしで描かれている月をみていると、この作品を描いているときの作者の心のうちも、きっとこんな気持ちがあるんだろうなと想像してしまいます。そうした、優しいものを描きたかったのだと思います。多分、海もテーマの外側に配置したことで、穏やかなものになっています。

 

 前回紹介をした『おつきさまのキス』は、月が少女からキスを贈られたことをきっかけに、普段静かに空に漂う月が、反応を返す展開になっています。そうした、ただ静かに見守る月をどう受け取るかは自分次第といった、どちらかというと月は受け身な印象であったのが、今回紹介する絵本では、月が積極的に地球上の生き物たちに呼びかけます。そうしたところが、作者の優しさが溢れているように思えるのです。

 

 そして絵についても、『いいたび ボンボン』では冒険というウキウキする旅を子ども心のあるタッチで描いていましたが、今作はグレーの中間色を取り入れ、アウトラインのない、図形化した角のないものたちが、穏やかな空気を運んでいます。

 

 今回は絵を描いた渡辺 三郎さんのお孫さんの誕生のお祝いに、お孫さんに捧げるといったメッセージが本の中に描かれていました。そこから、大人が描いた(子どもから見たらすこし大人びた)世界で、子どもを包んでいるような、そんな絵本に思いました。大人が子どもに読み聞かせる時間が、きっと優しい時間になると思います。

 

 それでは、今回も長々とお付き合いをありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

 

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おでん文庫のリアル本棚については下記よりご確認いただけます。

【おでん文庫】9月のテーマ ”月さんお星さん" - おでん文庫の本棚

 

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