こんにちは!ブログの書き出し(このこと)に悩むと、ひとまず本の紹介文の方から書き始めるのですが、紹介予定の本の画像が涼し気でいいですね。涼を感じます。最近、このブログを読むのが癒しといってくださる方がいて、ちょうど本日紹介する絵本は目から癒しを与えてくれる表紙なのではと思っています。文章で疲れたらぜひ、表紙に戻ってみてください。
ということで本日紹介するのは、こちらの絵本です。
『よるのふね』
山下 明生 作 黒井 健 絵
南と華堂(なんとかどう)さんで本棚の本を入れ替えたときにお店にいらしていた方々には、こちらの絵本を確か一番最初にご紹介させていただきました。それくらい、絵のすごさを特に伝えたかった絵本です。絵を担当したのは、私にとっては『手ぶくろを買いに』でなじみのある黒井 健さんです。
山下 明生さんは、作風がファンタジーであったり、写実的に日常をスケッチしたものであったり、詩的であったりと、ひとりの人の中にどれだけの創作エネルギーが渦巻いているんだろうと思います。インプットとアウトプットのバランスについての記事をどこかで見かけることがありますが、その間にある想像の時間みたいなものを覗いてみたくなります。
よしもと ばななさんの『海のふた』という本があり、自分の生きる場所と覚悟を決める(ように自分はみえた)主人公の女性に対して、故郷かあ…今も私なりの答えが出せずにいるのですが、この少し田舎な故郷で暮らしていくことに、自分は何かを得もせず失ってしまうような怖さを想像して、それから、もうそういう幻想に心を惑わされずに生きていける安心感が湧いたりして、心が揺さぶられます。そこに海が出てきます。不思議と海というのは、いつも同じようにそこに存在しているので飽きが来るかといえば、見つめるほどに自分の心が反射してくるような、そうして感情や思考が動くことで時間の流れを感じさせる、ところがあります。私などは、某海賊のように海の向こうの知らない世界への冒険へ駆り出すことを夢見てしまうので(あと必要なのは勇気…笑)、タイトルのふたという言葉に、主人公のそれだけの決意を想像してしまいます。
少し前置きが長くなりましたが、海というものが時の流れを生み出しているように感じることがあり、それが1つの発見としてインプットされます。山下 明生さんはそんなレベルじゃなく、それよりもっとたくさんの海を発見して、想像の時間の中にいくつもの海を持っている気がするのです。そして作家として長い時間を海と共に過ごしてきたわけです。
サーファーがある海の波の虜となって、居住地をその海の近くにすることも見聞きしたことがあるくらい、海は一生かけて愛せるものなんだと思うとすごいですよね。ささやかながら私も海は眺めているのが好きで、可能ならしばらく瀬戸内海のあたりで暮らしてみたいです。
そうした豊かな海の描写の本の中でも、絵を担当した黒井 健さんと物語のハーモニーが新しい風を吹かせているのがこの絵本です。
物語の始まりは、お父さんと娘の会話から始まっていくのですが、出だしは以前紹介した『ふとんかいすいよく』のような佇まいで、あ、この物語じーんとくるやつだ。と身構えて、はじまってみると中盤は、絵を見ず文字だけ追うと物語の印象がおやおや!?となります。この緩急が面白いです。文章がしんと静まったところからソーラン節がかかりそうな賑やかさ。そこで絵をみてみると、黒井 健さん節が文章を包み込んで、まろやかに仕上げているのです。絵の力、というより黒井 健さんの力が、作者と混ざり合ったことで物語の雰囲気が2人によって作られたような面白さが出ていて、そこがこの絵本の魅力なのではないかと思っています。
文章と絵がぴったりと調和するならそれは素晴らしいことなのですが、この文章の難易度の高い緩急は、表現が難しいと思ってしまうのですが、そうした挑戦的なところも含めてやっぱり面白い。絵本の短さでなくて、短編くらいの長さで挿絵だったらもっと普通に収まってしまった気もするので、やはり面白いです。
自分のわずかな読書量と価値観でこんなに面白いを連呼してしまい、もっと伝え方を工夫しなければ怒られてしまいそうなのですが、こいつ何言ってんだと気になる方がいたら、ちょっと読んでみていただけたら嬉しいなと思っています。
黒井 健さんの月夜の色が綺麗で、それだけでなく情緒のある絵の見ごたえが本当に素晴らしいです。今回の絵本の中で月が何も言わずに出来事を(ぽかんと?)傍観している姿は、読者と一緒の立ち位置かもしれません。
さてさて、次あたりでハリネズミ・チコの冒険を紹介出来たらなと思っています。はじまりの地であるポルトガルや、冒険する地中海や海賊に関する本を読み始めたら知らないことがたくさん出てきて、ひー(叫)たすら読み続けています。ではでは次回もどうぞよろしくお願いします。
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【おでん文庫】7・8月のテーマ ”ここにある海" - おでん文庫の本棚
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