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ボンボヤージュ!ベッドの船が出航します

 こんにちは!お盆という大人にとっての夏の連休が終わってしまいましたね。この期間、私は偶然にも海を見ることができました。太平洋というおおらかな言葉の響きに反して、波の音が力強くて渋かったです。水平線には船もなく、ひたすら横一線の青で、この水平線を東に向かってひたすら進み、大陸が見えてくるときというのはどんな具合なんだろうと、想像の中で旅をしていました。実際の船旅は不慣れでちょっとどきどきしますが、いつかハリネズミ・チコのように地中海あたりを巡ってみたいです。

 

 ということで本日紹介するのは、作者の好きなフランス語”ボンボヤージュ(よいたびを)”から想像を膨らませて生まれた絵本です。


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 『いいたび ボンボン』

 山下 明生 作 渡辺 三郎 絵

 

 帯にある「いそがしくないママはどこにいる?」というあおり文、受け止め方が人によってあるかもしれません。赤ちゃんのお世話で忙しいママは、主人公の男の子のことををそっちのけでいる(といっても、ママはないがしろにしているつもりも毛頭ないはずです)。男の子はそれならばと、いそがしくないママを探しに、ベットの船を漕ぎ出して行きます。

 

 いいなと思うのが、男の子がきちんと、いそがしくないママを探しに行くと、ママに表明するところです。ママの送り出しの言葉でも、よいたびを!が使われていて、微笑ましいんです。

 

  この男の子の態度をみていると、別の絵本で、マーガレット・ワイズ・ブラウンの『ぼく にげちゃうよ』を思い出します。うさぎの子どもがお母さんから離れてどこかへ行こうとするのですが、お母さんは子どもがどこへ行こうとしたって絶対に追いついて、摑まえることができるのです。

 

 『ぼく にげちゃうよ』の子うさぎが母親うさぎから離れようとしたのは、特別なきっかけがあったわけではなく、ふっと思い立ってやったことのように軽やかな始まりですが、その中に、子どものちょっとした気まぐれのような、親の愛を確認しているような行動が伺えます。そうした子うさぎの行動を包み込むように、母うさぎは愛情で子うさぎを引き寄せていくのが感じられます。

 

 『いいたび ボンボン』は、きっかけとなる赤ちゃんを最初に描くことで、より親の愛情を試してる様子が分かりやすく伝わってくるように思います。しかし、子うさぎの状況と違うのは、いいたびには道連れの仲間がいて、旅の途中で新たな友情が広がるところです。

 

 前者は、子うさぎと母うさぎとの関係を中心に、親子の絆が愛情で結ばれていることを描いており、後者は、愛情への不満をきっかけにして自分の世界が家族の外側にも広がっていくように見えます。

 

 物語は、男の子がいきなり海を目指し辿り着くのではなく、ただ旅をしようとベッドに乗って飛び出すところから始まります。そしてあてもなく突き進み、最終的に海へとたどり着きます。

 

 海というのが、ここでは海に囲まれている孤島というような閉鎖的な扱いではなく、外へと世界を広げてくれる存在として、象徴されています。

 

 最初のベッドのある部屋(閉ざされた空間)を飛び出すときには、部屋にあったぬいぐるみや飼っているだるまいんこが一緒にいます。そこからあてもなく突き進みながら、さまざまなものたちと出会い、友情が生まれていきます。こうして、友情の輪が広がっていき、大きな海へと辿り着く。男の子の冒険はそこで一区切りとなりますが、私はその海にたどりついたとき、ずっと先へつづく水平線を目の前にする姿を想像すると、未来やこれから先のことにわくわくするような気持ちが抱かれるんじゃないかと思います。作者の描く海は、他の作品でもそうした広がりを見せていたので、そういう存在で海がある、というのが個人的に好きです。

 

 親や子どもを信頼して冒険へ出ることを見守り、子どもは外に世界を広げていく、そうしたまさしく”ボンボヤージュ”の言葉が象徴されているこの物語は、冒険の物語として、子どもの心を潤す絵本なのではないかと思います。

 

 そして絵に関して、この絵本の絵を担当したのは『ふとんかいすいよく』の絵を描いた渡辺 洋二さんのお父さんだそうです。親子で同じ作者の本に携わるということがあるのですね!作者の本は、同じ方とタッグを組んでいくつか本を描かれていたりして、そうした一期一会で終わらない結びつきがいいなあと思っています。実は、渡辺 三郎さんの絵が素敵で、9月のテーマでも1冊取り扱う予定です。

 

 洋二さんのお父さんという通り、年齢も高齢だと思われますが、そんなことを感じさせない物事に囚われない自由な絵が、豊かな想像力を育んでくれます。比べるのも申し訳ないのですが、自分が描こうと思って技術を磨いても到底描けるものではない、唯一無二な絵で、その奥深さを感じてみてほしいです。9月に置く本は特に、内容に合わせてその抽象的で夢のような世界観を味わうことができます。

 

 さて、そんなこんなで海の本の紹介も残すところあと1冊となりました。終わるのがさみしい…私自身は、地中海の島の本を読んでいて、まだまだ海をひきずりそうです。とはいえ、9月も素敵な本を揃えているので、楽しみにしてもらえたら嬉しいです!また近くなったらご紹介します。ではでは次回もよろしくお願いします。

 

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【おでん文庫】7・8月のテーマ ”ここにある海" - おでん文庫の本棚

 

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