おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

チビチャーナが教えてくれること

 こんにちは!今日、自分の住んでいるあたりの天気は突然の荒れ模様でした。晴れ間が遠くに見えながらも、一時的な激しい雨がそこら中のコンクリートや家の屋根、植物たちにドドドと打ちつけていました。雷もゴロゴロ鳴り、一時ながらも荒々しかったです。そういえば、本日紹介する絵本の主人公である黄色いヨットのチビチャーナも、雨や荒れた海を過ごしていました。建物の中で聞く雨や雷の音は、やはりどこかで守られている安心感があります。でも、もし建物の外に傘もなく放りだれていたら…と考えると、今日はチビチャーナの気持ちに寄り添う気持ちが一層強まります。

 

 ということで、荒れ模様な天気の日に紹介する絵本はこちらです。

 

f:id:anko_tyk:20230701230137j:image

 『みなとのチビチャーナ』

 山下 明生 作 村上 康成 絵

 

 この絵本は、お店の棚の本を入れ替えした時にちょうどご来店されていた方が絵を気に入ってくださり、棚にいたのはほんの一瞬でした。目の前で自分の棚の本が買われることが初めてだったので、今もそのときの情景が心に残っています。思い出の一冊となりました。

 

 この本を見た人を一目惚れさせる絵を担当したのは『うみのポストくん』と同じ、村上 康成さんです。鮮やかな色合いが夏のパリッとした空気を感じさせて気持ちよいです。

 

 表紙にいる、ヨットからちょこんと顔を出した猫が目を引くものですから、最初、このタイトルにあるチビチャーナは猫のことだと思っていました。名前にチビがついて、猫もチビ。『さすらいのジェニー』を読んだ印象か、海辺にかもめならぬ猫の組み合わせがしっくりきます。海と猫の結びつきにどんな物語があるのだろうと興味を持ったのでした。そして本を読んでみて、主人公は猫が乗っているヨットであることに気が付きます。

 

 内容が分かってくると、この表紙の構図は、チビチャーナの気持ちを猫が代弁しているようにも見えてきます。主人公のチビチャーナは船や猫や鳥たちと言葉を交わすのですが、チビチャーナの見た目には、目や口、手足などはなく、感情を持っていますが、人間から見ればただの静物として描かれています。物なので自分の力で海を泳ぐことも出来ません。あるのは感情と言葉。ここにものすごい涙の日々が詰まっているのです。

 

 この本を読んだときに自分の中に明確に浮かんだ言葉が、忍耐でした。自分は忍耐という言葉が全く似合わないと言ってよいくらい、踏ん張りがありません(今は少しは…)。コーヒーを入れるためのお湯を、沸く手前のぬるい湯の状態のまま注いで失敗するせっかちなところもあります(今はそんなことは…)。

 

 チビチャーナは男の子のお父さんが作った黄色いヨットです。男の子がチビチャーナと名付け、港でそのヨットを浮かばせました。親子は次の休みに会いに来ると言い残し、チビチャーナはひとりで港で親子が来るのを待ちに待つ日々が始まるのです。

 

 自分では手足もなくどうにもできない状況の中で、できるのはただ待つこと。例えば、何かの事故で乗っていた電車が駅と駅の間で止まってしまい、身動きが取れないとき。自分の力ではどうしようもできない状況で、じっと待つことしかできません。電車に乗るときは何か予定がある場合だと思うのですが、そうした予定もキャンセルせざるを得ないとき、あ~っと絶望しちゃいます。こうなると、自分の気持ちが外に八つ当たりすることもあります。

 

 忍耐は、自分が辛い状況を我慢するというイメージがあり、上記のようなことを想像してしまいました。我慢というのは自分を押さえつけるようなもの。みなさんは忍耐にどういうイメージを持っているでしょうか。

 

 そんな苦しいイメージから、好きなことを我慢しない、といった言葉を聞くと聞こえがよく感じます。忍耐とは対極で、耐え忍ぶよりも何か行動を起こして変化し、立ち止まらずにいることの方がいいのじゃないかとまで思います。

 

 ではここまで忍耐に抵抗感を持っているとなると、この本を読んでチビチャーナに可哀相な気持ちが芽生えたり、自分はこうなりたくないと思ったのか、よくよく考えてみました。読んでみて思ったのは、チビチャーナを励ましたくなる気持ちが湧いてくるのと、何度もめげる瞬間がやってきても、それでも親子が会いに来ると信じている心の持ち方に、自分に無いものを感じたのでした。

 

 何かを信じ続けることというのは、難しいと実感しています。時にはハッピーエンドにならないこともあるので、諦めみたいな気持ちも半分持っておくぐらいがバランスが良いのかもと思っていましたが、最初から諦め半分でやっていたら、実は耐えることってそんなになかったりするのかもと、ちょっと思い始めました。

 

 チビチャーナは親子が来ると信じて、そんな自分を馬鹿にせずに自分も信じて、多くの日々を乗り越えてきています。そうやって自分を信じることを、私自身が難しいと思っているからこそ、チビチャーナの姿を励ましたくなり、忍耐の意味がかたちを変えて見えてきました。自分を信じることに目を向けるきっかけとなった、大人になってから出会えてよかったと思える一冊です。

 

 とうとう”ここにある海”をテーマとした夏の本たちの紹介もこちらで最後となりました。本を買ってくださった方や子どもの頃に読んだことあると教えてくださったり、山下 明生さんのおすすめの本を教えていただいたり、思い出深い時間を過ごすことができました。ありがとうございました!

 

 今週末には9月のテーマ本に入れ替える予定です。本棚のテーマや中身は追ってお知らせしますので、どうぞお楽しみに!次回もどうぞよろしくお願いします。

 

---

 

おでん文庫のリアル本棚については下記よりご確認いただけます。

【おでん文庫】7・8月のテーマ ”ここにある海" - おでん文庫の本棚

 

おでん文庫の活動を応援していただけたら嬉しいです!

↓↓↓

にほんブログ村 本ブログ 絵本・児童書へ