おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

新年1冊目は、好きなことに向かっていく勇気をもらう絵本

 こんにちは!2023年が始まりましたね。連日良い天気で、青空が気持ちよいです。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 それでは、新年の1冊目に紹介するのは、年明けに読みたくなる絵本

 エドワード・アーディゾーニ 作 あべ きみこ 訳

 『時計つくりのジョニー(JOHNNY THE CLOCKMAKER)』

 です。

 

 ちなみに、物語は年末年始と関係無いです。では何故この絵本かというと、主人公が自分の好きなことに打ち込む姿に、年明けから励まされるのです。

 

 年末を意識し始めると、来年の手帳やカレンダーを用意して、まだ予定が真っ白なページに、これから何が書き込まれるのか、想像することがあります。では、この1年はどうだったかと振り返ってみると、仕事をしている場合、大半は仕事の予定で埋まってしまっています。なんやかんやと、やることの優先順位が、生活をするための仕事・家事などで、気が付けば自分のことは後回しとなってしまい、今年こそは、やりたいことで埋めていきたいなという希望は、カスミの向こう側でも見るような、淡いものに。そうしたときに、カスミを散らしてくれるようなところが、この絵本にある気がするのです。好きなことに対する周囲の否定的な態度に何度も打ちのめされながらも、負けなかった主人公のジョニーに、そしてことあるごとに主人公を支えた女神のような存在であるスザンナに拍手を送りたくなります。

 

 ジョニーは、おそらく小学生くらいだと思うのですが、みなさんは小学生の頃に、何かにのめり込んだ経験はあるでしょうか。

 

 私は絵を描いたり創作するのが好きで、特別熱心に取り組んだというより、マイペースに楽しく続けていました。小学生時代は、水泳、音楽、英会話、書道など、いろいろな習いごとを経験させてもらいましたが、それらはほどほどの経験値を得て、離れていってしまいました。

 

 大人になってから、それらの習い事を経験して良かったと思うこともあります。それぞれに楽しく思う時間もありました。ただ、習いごとの時間が近づくと、さぼりたい、が頭をよぎったりして。それとは別に、小学校での工作や、絵を描いたときのことは、鮮やかに思い出に残っていて、純粋に楽しかったんだろうなと思います。

 

 そうして楽しいことに、生温く浸かっていた学生時代を経て、社会人になり出てきた悩みが、趣味と仕事その他の両立です。大人になると、書類の手続きや、保険の支払い、生活費の切り盛り、家事、上げ出したらやらなければならないことが多いことに白目をむきたくなりました。

 

 ここで、人生における趣味や好きなことの重要性とは、どれほどかというと、私は、自分という人間をかたちづくる大事な血肉の一部と言えるくらい、大事に考えています。

 

 大事な自分の一部として、絵を描く、というものがあると、高校生あたりで将来の進路を決める際に、自然と絵と関わっていきたいという考えに至ります。しかし、大人の目線からすれば、それでは生計が立てられないことは目に見えている。そうして親の反対を買うわけですが、当時の私は考えが浅く、どうして自分の好きなことを否定するのか、の一辺倒で悲しい気持ちになっていました。

 

 今なら、自分は努力も情報収集も未熟で、生半可な姿勢だったのが悪いと理解できます。ただ、当時は人格を否定されたと思わんばかりの勘違いをしました。そのために、それから結構な人生の遠回りをしていくことになります。誰からも理解されなくても好きなことを続ける、という言葉を聞いたことがありますが、今ではそう踏み切る勇気を私は称えたいです。

 

 好きが高じて、例えば世界で初めて原子をみつけるだとか、世の中への多大な貢献に繋がるかもしれません。しかし、その裏には、そんな結果や見返りなど想像せずに、好きだからという純粋な気持ちで活動を続けて、個人的な喜びをひっそりと噛みしめて、そんな日々の繰り返しが積み重なっているのだと思います。積み重ねるには、何でもないようなちいさい一歩を進めることが必要となります。そしてそれは、自分をかたちづくる大事な血肉となっていきます。

 

 この、どう転ぶか分からない一歩を、不安に感じた誰かが手を繋いで導こうとしてしまうことがあるのかもしれません。しかし、本人にとって好きなことは不安の対象ではないし、将来の仕事のためにという計画的な行動ではなく、好きかどうかまだ手探りしているところかもしれないです。

 

 好きなことの芽というのは、自分の深い部分に関わるとても繊細なもので、頑張って自分で育てなければなりませんが、もし周囲の人が、水や肥料を与えてくれる環境があったら、その芽は花を咲かせる可能性が高くなると思うのです。逆に、大地が干からびてしまったら、土壌を整えるのには時間を要すると思っています。

 

 この絵本の物語では、ジョニーが好きなことに芽生える可能性を感じることができます。

 

 ジョニーは手先が器用で、ものを作るのが好きな男の子です。ある日、本に載っていた大時計を作ろうと思い立ちます。それを嬉々として両親や先生に報告しますが、そんなこと出来るわけないと一蹴されてしまいます。これが結構、大人が子どもの話をないがしろに返事をしている様子がよく出ていて、悲しい気持ちを誘います。ジョニーの悲しげな後ろ姿や、浮かない表情など、ペン画のタッチが切ない陰りを表現しています。

 

 そんなジョニーに手を差し伸べるのは、スザンナというおそらく同い年くらいの女の子です。周りの子たちたちもジョニーが大時計を作るなんて出来っこないと決めつけているなかで、ジョニーなら出来ると信じて応援をします。

 

 このジョニーの挑戦に手を差し伸べるのが、大人ではなく子どもであるというところが、この作品の特徴のひとつだと思います。大人と違って簡単に問題を解決することは出来ないかもしれませんが、そうやって、誰かと助け合って困難に挑戦する中で、友情が育まれ、ひとりでやるよりも悲しみは半分、嬉しさは2倍、になるのだと思います。

 

 ジョニーの時計つくりはどうなるのか。そして冷やかしてくる周囲の人たちの態度は変わるのか。絵本を手に取って、読んでみて頂けたらと思います。

 

 それでは次回は、寒い季節に読むとほっこりする、ほわほわ絵本を紹介予定です。どうぞよろしくお願いします。