おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

子どもの感じる世界を一緒に旅したい絵本

 こんにちは!最近は蒸し暑い日が続いていますね。この時期は特に寝起きに髪の毛を押さえつけても、毛量が多いのも相まって数時間のうちにぼわあと膨らんでしまいます。その中に手を入れると、温暖な湿地帯が広がっています…。

 

 さて、本日ご紹介するのは佐野 洋子さんの絵本です。

 

 『おばけサーカス』
  佐野 洋子 作/絵

 

 子どもの頃に出会わずに(そもそも読書が少なかったために)、大人になって知った作家さん。100万回生きたねこを大人になって読んだりしている身分ですが、きっと多くの方が知っている作家さんだと思います。今回は個人的に好きだと感じたこの絵本を取り上げました。

 

 何が好きなのかといわれると、直観が好きと言っている。そんな具合です。佐野 洋子さんは物語のある、伝えたいことが込められている絵本を書く印象があるのですが、この絵本は、幼稚園児くらいの子どもが大人に読んでもらったりするのがいいのかな、なんて思います。言葉の心地よさと、ページごとに見せるパステルの鮮やかさ(でも優しい)に、ずっと最初から最後までを繰り返してページをめくっていたくなります。

 

 そういえば佐野 洋子さんは、絵も文章もどちらもご自身で制作をしています。画材も、絵本によって適したものを選んでいるように思います。今回はこのパステルのタッチが、おばけたちのサーカスという幻想的な世界観にぴったりです。きっと、水彩でも、アクリル絵の具でも、色鉛筆でも、佐野さんの手にかかれば、あるもので上手に料理することだって出来ると思うのですが、読む側にとって、こんな絵も描くんだと新鮮な出会いが度々起こることが嬉しいです。

 

 自身の作品に対して繊細さを発揮しているのか、好奇心が原動力なのか、どんな人なのかを今は想像して本を眺めています。谷川 俊太郎さんが、佐野 洋子さんに惹かれていた時期の話をしているのをどこかで読んだ時に、谷川さんは未知のものへ触れていく人なんだなぁなんてことも考えたりしていました。蛇足ですが。

 

 冒頭に少し書いた通り、この絵本では、同じ言葉を繰り返したり、優しいムチの音(ムチに優しい音がある音をこの絵本で発見しました)が効果的に、耳に響いてきます。

 

 そして場面やものに合わせた色。夜の色、テントの赤色、などなど色を連想する名前と、大きく描かれた挿絵の全体を支配している色との連携が為されています。

 

 そうしたところに、小さい子どもに向けた絵本として意識して作られたことが見えてきます。ではなぜ、いい大人がこの絵本に惹かれるのか考えると、前回の記事で話したような、目に見えないものが知らずに心をとらえているのだと思います。

 

 抽象的な絵と厳選した短い言葉が、想像の世界の扉をそっと開きます。絵本の中は深くて広く、例えば筋の物語とは別に、作者自身の記憶のかけらがそこかしこに転がっている可能性もありますし、そういったものは説明なしで見たら、他の人にとってただの石ころかもしれません。でも、そのかけらを作者が石ころを磨いて光るように置いておける場合があります。

 

 来月紹介をする予定の作家さんは海に縁があり、海が身近にない人でも、海を知っていている人でも、海への感触をさまざま得られます。そうした景色、絵、文章、人などさまざなものや機会との接触によって、自分の中で磨かれていくものがあるのかなと最近考えています。

 

 この絵本を読んですぐに何かを得る、理解する、ことを意識して狙ってするのをオススメしているのではないのですが、今月のテーマである【霧と幻想】で紹介をしている本は、見えていない霧も幻想もいつかは終わりがあり、それは新しい視界のはじまりへと繋いでくれるのではないかと思っています。

 

 そうした心持ちで、まだ言葉もおぼつかない子どもが読んで、感じる世界を一緒に辿るのにこの絵本をぜひ、試していただけたら嬉しいです。

 

 ということで、今週末はいよいよ7月がやってきます。7・8月にむけて海の本をたくさん集めているので、これからどんどん夏気分を盛り上げていきたいと思います。次回もどうぞよろしくお願いします。

 

---

 

おでん文庫の活動を応援していただけたら嬉しいです!

↓↓↓

にほんブログ村 本ブログ 絵本・児童書へ