おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

アニメーションから生まれた絵本『きりのなかのはりねずみ』

 こんにちは!最近、「おでん文庫で紹介する本を読んでみたい」、「好きな本です」と教えてくださる方の声を聞く機会が重なり、本当に嬉しい気持ちでおります。ありがとうございます!

 

 ではでは、本題のおでん文庫の6月テーマ”霧と幻想”で選出したうちの一冊をご紹介です。

 

 『きりのなかのはりねずみ』

 ノルシュテイン / コズロフ 作 ヤールブソワ 絵 こじま ひろこ 訳

 

 作者のひとり、ユーリー・ノルシュテインはロシアに生まれ、アニメーターとしてひたむきな制作をつづけ、自身の制作を追求するためにアニメーション・スタジオを設立し、アニメーション作家として活動を行っています。これまでに制作したアニメーションんは国内外で様々な賞を受賞し、本作も受賞をした作品のひとつです。

 

 もうひとりは、同じくロシア生まれの児童文学者セルゲイ・コズロフです。本作は、セルゲイ・コズロフの物語を出発点として、アニメーションが創作されたようです。

 

 絵を担当したフランチェスカ・ヤーブルソワは、アニメーションの美術監督であり、ノルシュテインのパートナーです。

 

 絵本を見ると、ひとつのキャンバスに描かれた絵なのですが、アニメーションというのは、切り絵を何層にも重ねて背景やキャラクターに奥行きを出したものになります。素材は異なりますが「PUI PUI モルカー」のような、ちょっとずつ動きを加えた画をコマ撮りしたものをつなげてアニメーションにしたような丁寧な動きが作られている上に、今作で主人公を幻想に誘う”霧”などの自然物の表現がひと昔前の特撮技術をみているような技法を加えるなど、挑戦的な作品に感じています。

 

 私はこのアニメーションを学生時代に見る機会があり、当時はこの作品をどのように見たらよいか分かってなかったなあと気付くことがいくつもあります。

 

 例えば、物語の起承転結の起伏やキャラクターの個性に目を向け過ぎて、気付けなかったことがありました。「アンパンマン」に出てくるカバオくんがバイキンマンにいじわるをされて泣かされていたら、そこから「可哀相」「しっかりしろ」など見ている側の感情が少なからず動き、先の展開が気になる…といった動機が生まれ、気付いたらTVアニメを見続けていることがあるとします。それが本作では大人向けの小説のように、時に人の仕草や視覚情報といったものを何かの感情に結びつける見え方に通じることがあります。パッと思いついたのは江國香織さんやサリンジャーナイン・ストーリーズの本でした。

 

 『ナイン・ストーリーズ』は登場人物の気持ちをはさまずに視覚的な情報から不穏さや不安な気持ちを駆り立てるものがあったり、江國香織さんは作者が日々心に留まったものが物語の中に断片的な個々がたくさん寄せ集まり、全体のストーリーと断片的な読み方(面白さ)の両輪があるように思います。

 

 そういう視覚的な試みがアニメーションで表現されているのが、私にとっては”大人びた”作品に映ってました。ただ、それではこの作品が大人向けかというと、子どもにとっても引き込まれる要素があるはずです。それが私はハリネズミが夜の霧の中を冒険するという物語にあるのではないかと思っています。

 

 絵本自体は縦31×横22cmとあり、見開きだとそれなりの大きさがあります。このサイズ感に、映画のスクリーンでも見るような絵が迫る雰囲気があります。私は部屋がちょっと薄暗い中で読んだらぞくぞくして気分が盛り上がったので、夜に読むのをお勧めしたいです。

 

 追うものと追われるもの、闇と光、見えたり隠れたり、来ては去るのような対極なものが霧の中で行ったり来たりすることに、日常にはない不気味さと幻想的な魅力が描き出されています。身近であまり霧を体験したことが無いのですが、唯一、那須高原に旅行した時に天気が悪く、日が出ている時間でも霧で木立がちょっと先は白い靄で見えなかったことが記憶に残っていて、海外映画だと殺人事件が起こりそうなイメージを想起していました。あの白いモヤから急に人影か何かが現れたらこわいです~。絵本も十分に見応えがありますが、ドキドキ感を求める方には、映像もお勧めしたいです。

 

 ということで、この絵本は大人が読むと断片的な物事に注目する読み方や作者の意図を知ることに面白さを感じ、子どもはハリネズミの冒険のドキドキワクワクを味わうといった違う目線で、それぞれが楽しめる絵本だと思っています。

 

 ちなみに、『アニメの詩人 ノルシュテインという本で、絵本制作の裏側がちょこっと書かれており、もし絵本に興味がある方は読んでみると発見があるように思います。また、こちらの本で知った作者が本当に描きたかったラストシーンについても触れています。思わぬところに作者の意図があることを知ったのでした。世の中で求められているものと、自分が表現したいこと、の自分が表現したいことの方を突き詰める姿勢は、そうやすやすとは出来ないことに思えていて、人としての魅力にも溢れているこの方のことを知って、良かったなあと思います。

 

 それでは、また次回も”霧と幻想”がテーマの本を紹介していきます(間に雑談を挟むかも?)。どうぞよろしくお願いします。

 

---

 

おでん文庫の活動を応援していただけたら嬉しいです!

↓↓↓

にほんブログ村 本ブログ 絵本・児童書へ