おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

家に入れる人数は無限大?

 こんにちは!最近、おでん文庫の本棚テーマの「舞い込む」という言葉を、日常の中で意識して過ごしているのですが、仕事が舞い込む、チャンスが舞い込む、手紙が舞い込む…来るという言葉を使うよりも、なんだが日常に躍動感が出てくることに気が付きました。言葉選び一つで楽しい気持ちになれるのは、ちょっと嬉しい発見です。

 

 ということで、本日紹介するのはこちらの絵本です。

 

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  『ゆきのプレゼント』

  ベアトリス・シェンク・ド・レーニエ 文 ライナー・チムニク 絵 矢川 澄子

 

 この本は4月の本棚テーマ【友だち】のときに取り上げた『ともだちつれて よろしいですか』と同じ作者になります。

 

 『ともだちつれて よろしいですか』は、棚を借りている南と華堂さんで定期開催している”大人の絵本読み合い会”で紹介させてもらったのですが、その場にいた方々に好感をもっていただいて、嬉しかったのを覚えています。

 

 まず色使いがサーカスの遊戯がはじまりそうなワクワクする紫やピンクで、内容はというと、子どもが王様とお妃様の招待を受けて、友だちを連れてお城に招かれるのを繰り返すお話です。この友だちというのが一癖二癖あり、次から次へと新たな友だちを畳みかけてくる展開が面白いのと、子どものすることにたじたじする大人というのもなんだか面白い、茶目っ気のある物語でした。

 

 『ともだちつれて よろしいですか』の記事については、下記からご覧いただけます。

友だちの友だちは友だちの絵本/友だちテーマの本を募集 - おでん文庫の本棚

 

 この作者の持ち味といえる奇をてらったユーモアが、今度は『ゆきのプレゼント』では、おじいさんとおばあさんの身の上にやってきます。

 

 前回紹介をしたあさがくるまえにが雪をきっかけにして物語が展開していくのと同じように、今作でも雪が物語を動かすきっかけとなります。

 

 表紙の白い画面に線画で書かれた人の列。周囲の赤い色がプレゼントの包みのようにみえてきます。明るいハッピーな赤ですよね。この赤い部分に雪が点々と描かれていることで、白い画面が雪一面(しかも無垢に綺麗に積もっているようにみえる)であることが認識されます。本文は全て線画の白黒なのですが、表紙で白=雪のイメージをしっかり確立させているので、読んでいる人は自然に、白から雪の存在を感じて、頭の中でイメージを広げていきます。

 

 それにしても、デザインが効果的に使われて、絵と上手に掛け合わさっているところ、こういうアイデアは誰から生まれてくるんだろう、と自分は考えてしまいます。本作りがひとりではなくて、何人もの人が1冊の本に関わっていく中で、素晴らしいものが出来上がっていく、そうだったらいいなぁと想像しています。

 

 そういえば最近、西洋画家のブリューゲル(「バベルの塔」の絵の人)にまつわる本を読んでいるのですが、1枚の絵の中に何十人いるんだろうと驚くくらい、人がいる。ディズニーアニメの「美女と野獣」で最初に流れる音楽で町の朝が描かれているのを見たことはあるでしょうか。パンを売ったり、髪を切ったり、洗濯物をしたり…所狭しと人が溢れた、にぎやかな朝の風景が描かれていますよね。これをブリューゲルは、にぎやかな風景に登場する人々に全て諺を持たせて描いた絵があるのだそうです。

 

 自分は、諺というのは日本的に言うと犬も歩けば棒に当たる、泣きっ面に蜂、仏の顔も三度まで、といったものなのかなと想像してみたのですが、これを全ての登場人物に当てはめて、それでいて1枚の絵の中できちんとまとめているのだから、ものごとへの観察力や分析・表現力が凄まじいことが分かります。

 

 話が少し脱線してしまいましたが、人がたくさんいるというのは、それだけで見ごたえがあるというか、何事かを期待するようなわくわく感があります。そんなわくわく感を与えてくれるのが今回紹介する絵本です。

 

 雪がどんどん降ってくる状況で始まる物語は、老夫婦が家の中で雪が通り過ぎるのを静かに待つことになるのかと思いきや、雪というハプニングによって足止めを食らってしまった人たちが、雪を凌ぎに夫婦の家を次々とノックしていきます。

 

 人がどんどん家にやってくる、それこそ際限など無いかのように。ここで白い画面がまた上手に生かされていると思うのですが、空間の端が描かれていない。私の家の中は、10歩も歩かぬうちに、必ず家のどこかの壁に突き当たります。絵で室内を描くときには、壁がみえてこその室内。そうした壁という境界が無い絵が成り立っているのは、色がついているよりも白黒の方が情報が少なく済む分、やりやすいのではないかと思います。いまにもどこかへ動き出して(はじけ飛んで?)しまいそうな、ぎゅうぎゅうの人たちをみていると、絵は止まっているはずなのに、頭の中では手足はばたばたと動き出している映像が浮かんできます。

 

 絵本が手元にない中で内容を思い出していたときは、紙の端までいっぱいに人がぎゅうぎゅうしていると思っていたのが、実際の絵本は絵の周囲に余白がとられていて、すっきりとした誌面でした。それだけ、人物の生き生き描かれた姿が、見た目よりも想像の中で大きく躍動していたのだと思います。

 

 この雪によるハプニングが舞い込んだ夫婦のもとには、多くの人が押し寄せて、さて、夫婦にとってどんな時間が訪れたのでしょうか。実際に絵本を手に取って、読んでもらえたら嬉しいです。

 

 ではでは、もう次回で11月のおでん文庫の本棚の紹介本は最後になります。12月のテーマ本もそろったので、POPの準備もし始めなければ。次回もどうぞよろしくお願いします。

 

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