おでん文庫の本棚

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少女の静かな祈り

 こんにちは!今日は突然、冬到来のような寒さでした。今日はお布団も取り出して、衣替えもして、急いで冬準備を済ませました。さっきすこしお布団に入ったら、もこもこであったかくて気持ちよくて、明日の朝起きれるか心配になってきました。

 

 というわけで早速、本日紹介するのはこちらの絵本です。


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 『あさがくるまえに

 ジョイス・シドマン 文 ベス・クロムス 絵 さくま ゆみこ 訳

 

 版画の美しい絵に引き寄せられて手に取った絵本です。あさがくるまえに、という夜から朝にかけて何かを想起させるタイトルでありながら、窓辺でぬいぐるみと一緒に寝ている女の子が描かれています。物語の終わりのようなワンシーンですが、ここからどんな物語が始まるのか、期待が膨らみます。周りには雪の結晶が、さまざまな美しい形を織りなしています。物語はこの雪が発端となり、動き出します。

 

 雪と聞くと、犬は外ではしゃいで、猫はこたつで丸くなる…の歌がまっさきに頭に浮かぶのは、どちらかというと雪があまり生活の身近に無いからかもしれません。初雪にちょっと心がウキウキして、服についた雪をまじまじ眺めたり、誰も足跡を付けていない真っ白な場所に足跡を付けたくなったり、子どもじみた気持ちがいつも湧いてきます。そうした面もありながら、もう一方では雪によって困ってしまう事態もニュースで耳にします。雪で道路がふさがってしまうと、場合によっては命の危険もはらんできます。大人はよく注意して雪と向き合わなければならないときがあるのです。

 

 そんな風に、多くの働く大人にとっては、雪が降るというと、ハプニングやトラブルが舞い込む可能性に身構えることなります。通勤ひとつとっても、大丈夫かどうか朝から心配になります。帰りなんてなおさらです。できれば雪は降ってほしくないと思う人だってたくさんいるのではないかと思います。

 

 そういう大人の気持ちから、離れたところにいるのが子どもたちです。大人でも、雪が降って会社が休みになればいいのに…と思うことがある(すみません自分です)のですが、この絵本を読んで、子どもの純粋な願いを前にすると、全然見え方が違います。

 

 この物語に登場する女の子には、夜にお仕事に行くお母さんがいます。表紙を見るのでも、何の仕事かなんとなく想像が出来るようになっています。そしてさらに、お仕事をするお母さんが大好きなことも…。

 

 女の子はお母さんに迷惑をかけないようにと、お母さんと一緒にいたいと思う自分の気持ちは表には出さず、ひとりきりのとき、心の中で祈ります。誰にも聞こえていない声。

 

 そんな風にして、絵本の文章は祈りの言葉のみに絞っているので、この女の子のいじらしさを絵から感じ取っていくことになるのが、この絵本の特徴的なところです。

 

 といのも自分は最初、何のことを書いているのかすぐに理解できませんでした…。祈りの言葉はあれど、会話といった言葉は一切は挟まれません。人間関係や気持ちなどは、絵に描かれた場面や仕草から読み取ることになります。女の子目線になりきって絵をよく眺めながら読むと、なるほどと、気持ちが分かってきて、何度も往復して読むことになっていました。

 

 しかし言葉に出せないことって、考えてみたらいっぱいありますよね。自分の気持ちを言葉にするのって、難しい。若い頃はもっと考えなしに言葉を荒っぽく使っていました。大人になると、気持ちを表に出さないことで身を守ることもあるし、単純じゃないなぁと思います。

 

 雪が降ってきたのは、少女の祈りが届いたのか、偶然かは分かりません。雪によって世の中の日常は振り回されることになるわけですが、少女にとっては、特別な一夜が訪れます。

 

 いいなぁと思うのが、前に書いたように、女の子の言葉は描かれていないので、この祈りをお母さんは知らないのです。女の子にとっては、自分の願いが叶うことを望んでいるけれど、お仕事をしているお母さんの邪魔をしたいとも思っていないのです。

 

 たまたま先日、棚を借りている南と華堂さんでお店番をしていたときに、出産をした親子へ絵本のプレゼントのご相談があったのですが、そういえば世の中にはこれからお母さんになる人へ贈る内容の絵本があります。子どもの誕生を喜び、これからの子育てを応援するものや、子育てで落ち込んだとき励ましてくれる絵本。そうした絵本があることを考えていたら、この絵本も、お母さんが読んだら子どもへの愛おしさが膨らむんじゃないかと思い始めました。

 

 共働きをしながら子育てをするお母さんが周りにいて、ほんとは子どもともっと一緒にいたいという本音をこぼす人もいました。その切ない気持ちは、自分の想像以上だと思います。しかし子どもが口には出されなくても、お母さんが大好きなんだってことを、お仕事を応援していることを、この絵本をみて知ることができると、励みになるような気がします。自分からしたら、こんなに愛されているお母さん、かっこいいなと思います。とはいえ、きっと自信を持つことは難しいですよね。子どもにもお母さんにも寄り添ってくれるこの絵本を、働くお母さんに手に取って読んでもらえたら嬉しいです。

 

 ではでは、次回もどうぞよろしくお願いします。

 

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