おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

冬ってなんだろう?から始まる猫の物語

 こんにちは!そして、メリークリスマス!

 クリスマスといえば昔、予定が無くて松屋で牛丼を食べていた、そんな過去もあり、誰しもにとって特別な日では無いかもしれませんが、このブログを見ているみなさま、そしてこれから出会うかもしれない誰かの幸せを願います。

 

 本日紹介するのは冬の絵本になります。表紙の、ひらひらとふる雪と、静かに何かをみつめる目をした灰色の猫が印象的な

 ハワード・ノッツ 作、まつおか きょうこ 訳

 『ふゆねこさん(THE WINTER CAT)』

 です。

 

 松岡 享子さんといえば、くまのパディントン『ちいさなうさこちゃんなど他にも多くの児童書の翻訳を手掛け、子どもの本を普及する活動も行っていました。

 

 私は、図書館でちらりと気を引き付けるような本があったとき、翻訳者名のところで松岡さんの名前を見つけると、ポッと火が焚きつけられる瞬間のような、嬉しさが起こり、本を手に取ることがあります。

 

 今回紹介する絵本は、表紙の絵にとても惹きつけられるものがあります。図書館のたくさんある本の中でふと目につく。それはきっと、作者と自分の感性になにか合うところがあるんじゃないかと思うのです。自分の心が動かされるかどうかが、本を手に取る大きなきっかけとなります。

 

 なのですが、海外の本については、そこに翻訳者が携わっています。その本の魅力を十二分に日本人に伝えようとしているのが、きっと翻訳者で、本と読者の橋渡しをしている人だと見立てたとき、簡単には崩れない橋であるという頼もしさ、そして橋の向こう側から「こっちに来てみなさいな」と優しく呼びかける人がいたら、一歩踏み出してみたくなります。

 

 そうして出会った物語は、表紙の絵で見るようなとても繊細な世界を描いています。

 

 夏に生まれた名前もない野良猫は、はじめての冬を経験します。冬ってなんだろう?と考えているところに、近所に住んでいる子どもたちが現れます。野良のふゆねこさんは、子どもたちと一緒に冬を体験することになります。そして、子どもたちとの距離が少しずつ、近づいていく…そんな物語です。

 

 初めてこの絵本を読み終えた時は、「上手く言葉に出来ないけれど、とても良い!」という語彙力の無い感想が浮かび、じ~んと感動していました。そのあと、本を閉じてしみじみと余韻に浸るとき、無ではないのですが、言葉では説明できない充実した感覚で時間が過ぎることがあります。ふと、この感性で捉える感覚、日本人ならではなのかなと思ったのですが、どうなのでしょうか。

 

 メールの文章を英語で作るとき、主語・動詞・対象を書かなければ文章を作れないため、自然と目的がはっきりとする文章になるのに比べて、日本語では、相手への伝わり方を意識して、例えば、あたりが悪くならないような配慮を付け加えるところがあります。文章の内容だけでなく、言葉の持つ雰囲気を読み取ることに慣れ親しんでいる人にとって、この絵本を読んだとき、絵本を通じて冬を知る・体験することが出来るという一面よりも、雪がひらひら舞うといった日本の擬音の表現の取り入れや静かな自然描写、また有名なディズニーアニメ『美女と野獣』の曲に出てくる歌詞の「おずおずとふれあうわ 指と指」のように、お互いの関係が少しずつ近づいていく、そういった繊細な表現に、心が反応するように思います。

 

 個人の感性で本を読んで、十人十色の感想が出てくるところを、ふと、自分を日本人という単位に置き換えたとき、この物語をどんな風に思うんだろう、はたまた海外の人たちはどうなんだろう?(ふゆねこさんが冬ってなんだろう?と考えるみたいに)と、関心の輪が広がっていきました。

 

 自分が書いたことも、たとえばサイコロよりもっと多くの面がある物体があり、そのうちのひとつの面であって、隣の面には違う視点が待っています。色々な視点があり、気が付くことがたくさんあるのだろうと思います。例えば、猫が見たい、雪が見たい、といった目線で読むと、挿絵に注目することになるかもしれません。

 

 ふゆねこさんの「なんだろう?」のメッセージも、そう考えると、なにかが広がっていきそうな気配があって、うーーーん、奥が深い!

 

 次回は年内最後の更新が出来ればなと思っております。引き続きよろしくお願いします。そしてみなさま、良いお年を!