おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

【おでん文庫】始めました

 こんにちは!最近は日差しが暖かくなってきましたね。水温(みずぬる)む、という言葉が頭に浮かぶようになってきましたが、朝に顔を洗うときは、水がまだまだ凍るように冷たくて、春が待ち遠しいです。

 

 今回の記事は、いつもの読書感想文ではなく、私の新しい取り組みについてのお知らせです。

 

 みなさんは、本屋さんが本棚の一角を貸出して、そこで個人や出版社が本を販売するといった取り組みがあるのをご存じでしょうか。雑貨屋さんでも、棚を仕切って多くの作家さんのハンドメイド作品を販売しているのを見かけますが、その本屋さん版となります。調べてみると、東京では棚貸しを主とした本屋さんもあるくらいで、本を販売する方々の個性がひかる本棚を眺めるのがなかなか面白く、私もこの度、本棚の一区画をお借りることにしました。

 

 棚をお借りした本屋さんは、東京都日野市南平にある【南と華堂(なんとか堂)】さんです。

 ↓【南と華堂】さんのHP

peraichi.com

 

 【南と華堂】の店主さんは子ども向けの本をとても好きでいらっしゃって、何度かお伺いしているのですが、その度に、本を多くの人に届けたいという思いが伝わってくる方です。【大人の絵本読み合い会】というのを冬以外の期間に月に何度か開催されていて、そこで紹介された絵本がもう100冊を超えたそうで、私も一度参加したのですが、大人になっても好きな絵本のこと話せる機会があるのが嬉しかったです。お客さん同士で会話が広がることもあり、そういう空間が出来ているのは店主さんのお人柄があってこそなのだと思います。

 

 そういったところに惹かれて、これまで本を売ることに興味は無かったにしても、大人も入りやすい雰囲気のある、児童書を扱う本屋さんが個人的には貴重で、大人も含めて本で人の輪が広がるといいなという思いから、こちらで棚を借りて小さい本屋さんを始めることにしました。

 

 お店の屋号は【おでん文庫】です。

 

 大人も子どもも好きな食べものみたいに、みんなで味わう児童文学を中心に展開していく予定です。しゃれた横文字も検討しましたが、せっかくなら日本らしくて親しめる名前にしたいと思い、これに決めました。肩ひじ張ったところが無くて気に入っています。

 

 置く本については、毎月テーマを決めて、順次入れ替えていこうかと思っています。(状況次第で変更の可能性もあるので必ずとはいえませんが…)

 

 2月のテーマは

 ”『ハイジ』とハイジに関わった日本人・岸田衿子さん”

 です。

 

 『ハイジ』そして、TVアニメ『アルプスの少女ハイジ』でOP/EDの作詞を担当した"岸田衿子"さんの本、また冬の絵本でおすすめの一冊も持ってきました。

 

 以前ブログにも書いたのですが、『ハイジ』は個人的に思い入れのある作品です。コロナが訪れて最初の緊急事態宣言で、閉鎖的な日常を強いられ、人と会うこともままならない状況に気持ちが知らずに塞いでいたときに読み、ハイジの明るさと、スイスの広々とした豊かな自然に心が元気を取り戻すような体験をしたことがありました。これから春にかけて、少しずつ行動が活発になっていくような季節にピッタリかと思い選びました。

 

 岸田衿子さんは『かばさん』の絵本で知ったのですが、自分に刺さったのは仕事で忙しかったときに読んだ『いそがなくてもいいんだよ』の詩集です。浅間山麗で暮らしていた岸田さんは、もともとは風景画を描かれていて、そこから詩も書くようになります。自然を愛しているのはもちろんだと思うのですが、自然と人間のあいだにきちんと線引きがあるようにも感じて、自然を前にした人間の情感を客観的に観察して描かれているところに真実味があるのではないかと思っています。

 

 ハイジの歌詞にあるような、子どもが口ずさみたくなるテンポの良い詩集から、実際の浅間山麗での暮らしを綴った読み応えのある本を選びました。

 

 【本リスト】※2/9現在

  • 『ハイジ 』
  • 『木いちごつみ』
  • 『いそがなくてもいいんだよ』
  • 『風にいろをつけたひとだれ』
  • 『野の花の道』
  • 『ふゆねこさん』

 

 『ハイジ(福音館古典童話シリーズ)』

 『ハイジ(上)』

 『ハイジ(下)』

 J・シュピーリ 作  矢川 澄子 訳 パウル・ハイ 画

 福音館書店

 

 『ハイジ』の本はさまざま出版社で訳本が出ており、その他の出版社から出ている8冊とさーっとで恐縮ですが読み比べてみて、子ども向けで、装丁が立派で、完訳本(原文のドイツ語からの訳)で尚且つ、言葉の選び方や読みやすさで、個人的なイチオシの矢川澄子さん訳の本を選びました。

 

 福音館古典童話シリーズの装丁は見た目からワクワクするので、手に取りやすそうな文庫版(上/下)と合わせて置きました。

 

 『木いちごつみ』

 きしだ えりこ 詩  やまわき ゆりこ 絵

 福音館書店

 

 ひらがなで書かれたテンポの良い詩が並びます。ゾウやキリンなど、さなざなな動物たちとの空想上の対話だったり、ハイジの歌詞にあるような、子どものなぜと問いかける気持ちが詩になっていたり、好奇心と想像力が豊かな子どもの気持ちを受け止めてくれるような気がしています。子どもがぬいぐるみとお喋りするような、大人の知らない密やかな自分の世界を持っていると感じさせる雰囲気が好きです。

 

 そして『ぐりとぐら』でもご存知の山脇百合子さんの絵が、子どもの頃に慣れ親しんでいた絵ということもあって、今でもこの絵をみると好きな気持ちがあふれてきます。

 

 『いそがなくてもいいんだよ』

 岸田 衿子 詩

 童話屋

 

 上でもお話した通り、大人が読んで響く詩があるのではないかと思っています。これまで詩というものは難しく感じてあまり読んでこなかったのですが、岸田衿子さんの詩は、豊かな自然風景が思い浮かべられて、入り込みやすいです。作者の悩みと言ったら軽い言い方で申し訳ないのですが、考えさせられる詩もあって、「一生おなじ歌を 歌い続けるのは」という詩など、自分の生き方に迫ってくるように感じて、そういう問いかけに私はハッと気づかされる立場でした。

 

 ↓公式HPでタイトルの詩が紹介されているので、よろしければご参照ください。

いそがなくてもいいんだよ:おとなの詩文庫|書籍一覧|童話屋

 

 『風にいろをつけたひとだれ』

 岸田 衿子 著

 青土社

 

 岸田衿子さんの浅間山麗での暮らしがメインで、スイス・イタリアなどの海外での旅行記も描かれています。田舎や自然の中での暮らしに憧れる気持ちがあるのですが、この本を読むと、本当の自然の中での暮らしが見えてきます。

 

 それは、自然の中での暮らし"体験"を描いたもの、というのではなく、土地に溶け込んだ人間にしか書けないものがあるように思います。熊の話など、私はYahooニュースで見かけると、山里から降りてきて恐い、と思いますが、土地の人なら熊が出ることは承知の上で、排除よりも共存の意識の方が見えて、考え方の大きな分かれ目があるように思います。

 

 『野の花の道』

 古矢 一穂 画 岸田 衿子 文

 福音館書店

 

 季節の植物のスケッチが紙面に大きく描かれており、その丁寧で優しい水彩画に惹かれて、見入っていました。

 

 植物の名前も併せて紹介されていて、植物の観察図鑑的なものかと思いきや、虫食いされた穴がたくさん開いた葉っぱなどもあり、道草をして見つけた植物を拾ってきて。そのまま描いたかのような雰囲気があります。虫が葉っぱを食べるところに現実感があって、想像が刺激されます。ナズナシロツメクサなど、身近な植物がこれから春になって見かけるようになるのが、今から楽しみになります。

 

 『ふゆねこさん』

 ハワード・ノッツ 作 まつおか きょうこ 訳

 偕成社

 

 英語で書くと『THE WINTER CAT』という本。そのまま訳すと、ふゆのねことなりそうなところが、名前にして更に"さん"付けをして、相手を立てているような優しい響きがしますよね。作風が実際、柔らかい鉛筆で描いたように優しくて、ふゆねこさんと子どもたちの距離が少しずつ近づいていく様子も繊細に描写されています。

 

 もう古本しか出回ってないようで、実際の絵本をご覧いただく機会になれば嬉しいです。

 

 以前ブログでも取り上げたので、良ろしければ下記もご覧ください。

冬ってなんだろう?から始まる猫の物語 - こどもの本棚

 

 紹介は以上となります。初めて出す本なので何にしようかとても悩みましたが、どれもおすすめの本です。

 

 今回の展開に伴い、今使用しているブログ名【子どもの本棚】についても、後々【おでん文庫】の名前を使ったものに変更しようと考えています。変更する際は改めてご報告するようにします。

 

 次回はまたこれまで通りの読書感想文で、日本にちなんだ本を紹介しようと思います。またどうぞよろしくお願いします。