おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

想像力豊かなハリネズミの物語

 こんにちは!何かの読みもので(もしくは人から聞いて)、三日坊主の人が習慣を身に付けたいときは、まずはトリガーとなる行動を決めるとありました。例えば勉強を習慣にしたい場合は、その前にやることを決める。シャーペンの芯を補充するだとか、不可が少なく済む、ちょっとしたことで良いみたいです。私がこのブログを書くときには、音楽を聴くのが自然と習慣になっていました。それもゲームのBGMです。もうずっと同じBGMの繰り返しなのですが、それで良いみたいです。BGMでエンジンをかけて、本日も書いていこうと思います。

 

 さて本日紹介するのは、想像力が豊かなハリネズミの物語です。

 

 ハリネズミの願い』

 トーン・テレヘン 著 長山 さき 訳 祖敷 大輔 イラストレーション

 

 すみません、今回は大人向けの物語です。あとがきで著者は子どものために物語を書いていたとあったのが印象に残っていて、本作が子ども向けかと思っていたのですが、後からよくよくあとがきを読むと大人向けときちんと書かれていました。

 

 著者のその他の作品では、子ども向けに物語を書いていたら大人にも人気が出たといういきさつがあります。それこそ言葉使いは子でも読めるものでありながら、過去から未来のどんな時代の人でもきっと出会ったことのある、不安、期待、希望、挫折、さまざまな心の引き出しが開きかけます。ふと今日の晩御飯を何にしようか閃いては、他のことをしていたらまた忘れてしまっているような軽やかさで、大人が読んで惹かれる部分を持っています。

 

 それと同時に、同著者の『おじいさんに聞いた話』を読んでいて気が付いたのは、大人の投げかける言葉の意味を子どもは分からないままでも関心を持ち続けることがあります。なにか言いたいことが見えそうで見えない不思議さを残すという点で、子どもが読んだとしたら印象に残る物語ではないかと思っています。

 

 物語は、ひとりぼっちのハリネズミが主人公です。おでん文庫の【友だち】テーマで選出した一冊となりますが、この物語の主人公は友だちがいないという状況にあります。

 

 ハリネズミは友だちを家に招待をしたいと考えながら、例えば自分の針で誰かを傷つけてしまわないかなど、さまざまな葛藤が巡り一歩踏み出せません。タイトルにある"ハリネズミの願い"が、私なんかは”ハリネズミに友だちが出来て一緒にお茶が出来ますように”という願いに置き換わって、ページをめくる度に次こそは!となんだかハリネズミを急き立ててるような気持ちが湧いてしまったこともちょっとあり反省です。

 

 自分などは、踏み出せないハリネズミの気持ちに共感をして、読み始めあたりは自分が出来ないことをハリネズミに重ねて応援してしまっていました。ほしいものを手に入れている人をみて羨ましくなって、同じようになりたいと願っているときの姿が思い浮かべられます。それが自分の望みなのか、羨ましさから来ているものなのか、私自身よく分かっていない。だからこそ、ハリネズミが友だちをほしいと願いながらも、ときには自分を誇りに思い、(想像上の友だちですが)自分と合わないと思う友だちを無理して受け入れるようなことはしない様子が印象に残ります。

 

 想像上のことであれ、どちらかというと悪い方へ考えるのが得意なハリネズミ。人間関係の間に生じる価値観の違いや、ちょっとした嫌なこと、ほんとうによくこれだけ思い浮かぶなあと、友だちがいないのに人間観察のプロです。恋人同士が付き合い始めはお互いのいいところだけ見えて、結婚すると嫌なところだけよく見えてくる聞くところの、恋人期間を飛ばしていきなり結婚後の目線です。あまりの注意深さに、石橋も叩き過ぎて跡形もなくなっている(石橋のかけらはそれはもう細かく塵のように砕かれている)のではないかと思います。

 

 もしこういう事細かい人がいたら、一見生きづらさを感じそうに見えてきませんか。他の誰かでなくても、例えば自分の欠点を挙げていったら私は簡単に落ち込みます。もし自分の譲れないものが少なかったらもっと良い風に変われるんじゃないか、など。しかしそういった個人的に内省する部分をあえて全面に出して、ユーモアを交えて愛すべきキャラクターに昇華するのがこの著者のすごいところです。

 

 いつか誰かが自分を受け入れてくれる、という希望と絶望を抱えながら自分と生きている。そういう両面を持ち合わせるのは、縄跳びのヒモが空中に舞い上がったと思えば、地面にぺちんと叩きつけられたりと、なかなか激しいと思うのですが、くよくよしても一晩寝たらすっきりみたいな短編ゆえの読みやすさも相まって、最後までするすると読んでいました。

 

 作者はタロットカードの正位置と逆位置の両方を包括していて、結果の良し悪しではなく、天が上か地が下かといった事実をみる目を持っているのかなと思います。普段は目を覆いたくなる部分を面白く書いてくれてありがたいです。

 

 次回は友だちテーマの最後の一冊を紹介します。またどうぞよろしくお願いします。