おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

海を描く作家さんの本がとてもよい

 こんにちは!先日、本棚の中身を入れ替えに行ったときに、人形劇に参加しクラリネットを演奏するハイパーな友だちと一緒だったのですが、友だちの持っているものが自分とは対極で魅力的に感じます。絵といえば、誰かと間接的に関わるかたちです。そこでは誰かが絵を眺めている時間の長さによって、何かを感じたり、見つけたりするものがあると考えています。逆に演奏や人形劇は、例えばその場で誰かを笑顔に出来るような場のチカラがあって、キラキラの中心に心が引き寄せられていく感覚。そういう場に立ち会うと感動して鳥肌が立ちます。

 

 本を読んでいる間も、そうした場のチカラを感じるような臨場感のある感動を受けることがあります。渡辺 茂男さんや瀬田 貞二さんの本を読んでいて、その存在に感動して涙キラリすることもありますが…そう、今回取り上げる本は読んでいてじーんと胸が熱くなった本です。

 

 『海のしろうま』

 山下 明生 作 長 新太 絵

 

 ちなみに、この本を出版しているフォア文庫について、南と華堂さんにいらっしゃった方から質問があり、こちらは岩崎書店金の星社童心社理論社によって協力出版されたものです(本に掲載された情報となり現在は違っていたらすみません!)。巻末にはフォア文庫を立ち上げた経緯や思いが書かれていました。

 

 作者の山下 明生さんは、広島県能美島で子ども時代を過ごした作家さんです。海に関わる作品が多く、出版している本もそれこそたくさんあります。ハリネズミ・チコシリーズのあとがきでは、創作活動50年の集大成と書かれており、長きにわたって子どもへ本を届けています。

 

 今回紹介する本は1985年に出版されました。内容に時代錯誤を感じるところは個人的にはほとんどなかったので、現代でも読みやすいです。

 

 現代との違いで感じたのは、海の中を覗く「箱めがね」が手作り感がありそうなところや、海を見る高台を大工仕事で手作りしたりと、必要なものを自分たちでこしらえる様子は、楽天Amazonに頼る自分の生活と比べると違いますね。携帯もない時代なので、海に出た人が家に帰って来るかどうかは、ただただ帰りを待つばかり…。こうしたときに側にいる誰かと寄り添って不安な気持ちを落ち着けようとするところなども、個人的な感覚ですが、あまり身近では無いかもしれません(ただ自分がカワイソウなやつかもしれません…)。

 

 本文では海に関わる4つの短編がまとめられており、解説は『ともだちは海のにおい』の工藤 直子さんです。海繋がりのこちらの本もおすすめです。

 

 表題の『海のしろうま』にあるしろうまという表現、海とどう結びつくのか一瞬ハテナが浮かび、興味をひかれました。ちょっと時間を置いて考えるとなんとなく思いつくこともあるかも。

 

 しろうまの例えが、地域の言い伝えなのか作者の感性なのか調べきれずなのですが、新しい海の語録として、物語を読んだ人は忘れない言葉になると思います。

 

 海の物語というと、浦島太郎、人魚姫や「ジョーズ」、巨大イカなど、賑やかな海の登場キャラクターたちと遭遇する物語が思い浮かびやすいかなと思いますが、みなさんいかがでしょうか。

 

 この短編集では4本のうち3本は、先に上げた華やかな物語とは違った印象があります。陸地で暮らす人間が海と不思議な接触をするにはするのですが、海自体をイメージで作りあげるというより、もっと実際の海をそのまま書いている印象です。ホーンテッドマンションのおばけと、呪怨の伽椰子がどっちが恐いかというと伽椰子の方を選ぶかと思います。なぜなら世界設定がリアルだからです。ああ、もっとよい例えがしたいけれど思い浮かばない…。

 

 そうした実際の暮らしの中で、不思議な出来事との遭遇があり、煙のように不思議が立ち上がり、と思えばふっと現実に目覚めます。めでたしめでたしで締めくくられる物語とは違った、読んだ後に余韻が残る物語です。

 

 残りの1本はめでたしめでたしという言葉が似合う、愉快な航海もある物語になっています。4本の中で1本、毛色の違う楽しい物語が挟まる構成が読書を飽きさせません。それに、作者の作品の色の振り幅が豊かであることを知ることができます。

 

 個人的に読み応えがある思うのが表題の「海としろうま」です。表紙にいるおじいちゃんと孫の物語です。この作品を読んでじーんときました。自分の今の暮らしの近くに海はありませんが、海が近くにある暮らしの中で生まれる感性や生き方、そうしたものに憧れる気持ちを抱きながら読んでいました。海が身近になくても、本を通してすぐここに海が寄せてくる、そうしたことを感じる本です。

 

 今回本棚に置いている本が偶然初版本(今回の本棚の本はほぼ初版です)で、それにしてはきれいな状態で、偶然良い本を棚に並べることができました。海に関する本を読みたいとき、しかもちょっと物語に読みごたえを求める際に、この山本 明生さん本を読んでみてもらえたら嬉しいです。小学校中高年の夏休みの読書にもおすすめですが、大人にとっても、読んで心に響く本です。

 

 これから同じ作者でさまざまな海に関わるの本を紹介していくので、お楽しみにしていただけたら嬉しいです。次回もどうぞよろしくお願いします。

 

*しろうまをしまうまと記載していました!申し訳ございません。訂正いたしました。

 

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【おでん文庫】7・8月のテーマ ”ここにある海" - おでん文庫の本棚

 

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