おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

ハートウッドホテルで働くねずみのモナの物語

 こんにちは!最近、目覚ましを掛けずに早起きをするチャレンジをしているのですが、むしろ心配がすぎるのか熟睡できなくなりました。ハートがやわすぎる。こんなことで世の中渡っていけるのだろうか。

 

 ということで今回紹介する本は、森の中にひっそりと存在するホテルを舞台にして、一匹のねずみが自分の居場所を見つけていく物語です。

 

『ハートウッドホテル ねずみのモナと秘密のドア』

 ケイリー・ジョージ 作 久保 陽子 訳 高橋 和枝 絵

 

 4月のテーマを【友だち】にしようと考えたときに、環境や関係性は被らせずに、散らばらせることにしました。そして選んだ今回の本は、舞台が職場です。

 

 みなさんは小さい子どもの頃、働くということをどのように捉えていたでしょうか。私は、身近にあった肉屋さん、魚屋さん、豆腐屋さん、美容師さん…もしくはテレビで見る大人の行動を観察して、そこで感情が動くというよりも、見たままを受け止めていたように思います。

 

 その観察力が発揮されるのがおままごと。お医者さんごっこをしたら、一日何人のオペに立ち会い成功させていたことか。レジのお札をせっせとこしらえていたのもうっすら思い出されます。あれは本だったのかノートだったのか、紙をセロテープでぺたぺた貼り合わせて冊子を作ったりもしていました(セロテープを多用して鉛筆で書く面が少なかった気がします)。

 

 子どもにとっての"働く"は、実際に働いたことが無い以上は想像で作りあげていくことになるので、例えばオペをする道具に使うのは、ご飯を食べるのに使うフォークやナイフ、文房具のハサミを代用していくことになります。代用と言っても、演じている子どもたちにとって、目に見えているものと頭の中で描いている世界は、おそらく頭の中にあるものほど現実に近いのではないかと思っています。

 

 昔鑑賞をした劇で、何もない舞台で紐だけを使ってあたかも目の前にものがあるように錯覚させる演出がありました。そのときは紐をきっかけにして、輪郭を想像して頭の中で椅子やテーブルなど想像していくと、目の前に実物は無くても、頭でものの存在を補っています。

 

 そうした、現実のものを想像の中に引き寄せて目の前に展開していけるのが大人だとしたら、子どもは体験が少ない代わりに頭の中の想像が現実として受け止められていくので、大人よりも、空想の世界に引き込まれていく力も大きいのかなと想像しています。

 

 そこで今回紹介する物語というのは私からすると、働くといってもおままごと側の世界が広がっていて、実際のものをよく見てきた頭からすると、コリがほぐれるんです。例えば、乾燥したタンポポをホウキにして掃き掃除をするという一連に、私は心がぎゅっと掴まされました。そんな発想思い浮かばないです。

 

 しかし、これを子どもが読んだら、子どもはホウキというもの自体への関心が高まり、タンポポをホウキの代わりに使えるか試したくなるのではないかと思います。タンポポをホウキとして扱ってみることで、想像の中でホウキを扱っている自分の姿をあたかも現実でも扱っているかのように結び付けるのではないかと思うのです。

 

 この物語は、そうして子どもがあまり知らないホテル従業員の裏側を子どもが楽しく体験できます。身近にあるタンポポやドングリなど、知っているものが出てくるほど、きっと引き込まれていくことと思います。

 

 そして職場で出会う従業員たち。これも子どもにとっては幼稚園や学校とは違う世界です。それぞれに役割があり、自分たちのすべきことを行っています。時には、仕事が上手く出来ないときや、自分が誰かよりも劣っていると感じて落ち込むこともあります。しかし、同じ環境の中で長い時間を過ごして出会う仲間というのは、絆が生まれていくこともあります。

 

 仕事場で自分をさらけ出した人を煙たく思うときもありますが、とても追い込まれた状況だったり、腹立たしいことだったり、悲しいこと、たまに会う友だちには見せなくてもよい感情が仕事の方では豊かに出てきてしまうことが私はあったりします。そうなるのが嫌なのですが、どうしようもないときがあるのです。

 

 しかし、そんなときに同僚からちょっとご飯いこうと声を掛けられたものなら、とても励まされたものです。責任を背負っている仕事でのストレスが、仲間の思いやりひとつで軽くなるのだから、不思議です。それぞれが持っている重たいものを、お互いに助け合っているのと、この人がいなくちゃ駄目だという、自分だけではどうにもできないことも知るのも気づきです。そういう補い合う関係は、何か仕事やプロジェクトなど同じものを一緒に取り組んでいる人達の中で生まれてくると思います。

 

 同僚が仲間であり、家族であり、友人となっていく。そうした関係を築いていくのがなかなかこの物語では一筋縄ではいきませんが、人類みな兄弟という標榜を頭ごなしに訴えてくる物語よりも、ずっと心に入ってくる展開だと思います。

 

 全4巻のシリーズなので、読み進めていくほどに人間(ほんとは動物)関係の困難を乗り越えて仲間との絆が深まるモナの姿は、シリーズものだからこそ味わえる深みだと思います。

 

 と書いているのも3巻までの感想です。ブログを書くまでに全巻読みたかったのですが、まだ4巻だけ読めておらず、このあとひっそりと読み終えたいと思います。終わらせるのはさみしいですが…。

 

 個人的にはこの本の表紙で高橋 和枝さんのことを知ったので、ありがたい出会いでした。本文の中に挿絵もあり、物語にぴったり寄り添っています。広まってほしい本です。

 

 次回も友だちの本を紹介する予定です。そして、そろそろ来月の本棚テーマの準備もはじめなければ!またどうぞよろしくお願いします。