こんにちは!本日はおでん文庫の3月のテーマ記事に続いて2つ目の投稿です。
おでん文庫の3月の本のテーマは"山"。選出した本を順次紹介していきます。まず始めはアイスランドの物語です。
※3月のテーマについては下記の記事をご覧ください。
『Ástarsaga úr fjöllunum』 ※邦題『女トロルと8人の子どもたち<アイスランドの巨石ばなし>』
グズルン・ヘルガドッティル 作 ブリアン・ピルキングトン 絵 やまのうち きよこ 訳
アイスランドというと名前からして凍るほど冷たい土地を想像しますが、実際には氷河もあれば火山もあり温泉も湧く、生きている大地を感じる場所です。
大西洋に浮かんだ島国で、右手にはノルウェーやイギリス、左手にはグリーンランドが見えます。大きさは北海道より少し大きくて、人口は東京都世田谷区の半分にも満たない40万人以下(※2020年1月のデータを参照)です。アイスランドの大地が誕生したのはヨーロッパ大陸より何千万年も遅く、ヨーロッパ大陸とは別に、新たに海嶺から噴き出すマグマによって出来たものだそうです。まだ若い大地は緑よりもむきだしの火山岩が広がっているそうで、私などは、単純な想像ですが何千万年前の大地の姿が今地上にあると思うだけで好奇心がくすぐられます。
今回紹介する物語はアイスランドの大地に暮らす大きなトロルたちのお話で、山を中心に据えた物語というよりもっと自然を大きく捉えた作品になっています。ただ、挿絵を見るとどのページにも山、山、山…。ちょっと富士山にも似たゆるやかな傾斜の山が、メインで描かれていないとはいえ、気になるのです。
そうしたら、おでん文庫で出す本を選んでいた時に偶然この本の原題をWeb翻訳に通したところ『山からのラブストーリー』と訳されました。日本語題から更に物語の核心に触れるタイトルに山と入っていたら、重要度が変わってきます。
この物語はアイルランドの火山に住んでいる女トロルのお話を、おじいさんが子どもに語るかたちで進行していきます。大地で起こる自然の出来事というのは、すべてこのトロルたちが関わっているといったお話で、日本でも似たような発想があります。外を歩いていて身体に記憶にない切り傷を見つけたらそれはかまいたちのせいだ、という風に、何かの現象を目に見えないものに関連付けて納得することがあります。
現代では何でも分からないことは解明していくのが当たり前で、そんな信ぴょう性の無いことを口に出すのは冗談をいう時だけな気がしていますが、子どもがサンタを信じている時があるように、夢の世界を持っていることで心がうきうきしたり、自分が想像するものを信じる気持ちが、強い心を育んでいるように思うのです。
あとは事実を目の当たりにした時に、心のクッションになるような気がするのです。皆既日食がまだ何か分からなかった時代に、世界が暗闇に包まれてこの世の終わりだと人々が恐怖していたように、まだ人生経験の少ない子どもが知らずに恐怖を感じてしまったとき、どんな物語を語りましょうか。太陽がウインクした、もしくは実はオセロみたいにひっくり返ると裏側は真っ黒、なんて話をしたら子どもはどんな反応をするでしょうか。怖かったはずのものが、全然違う見え方になる可能性があります。
現実的に生きていると、なかなか想像を膨らませるといっても、今日の晩飯のメニューだったり、明日の朝起きる時間を気にしてそんな余裕が無いことがあります。そんな状況下でこの物語を読んだ時は、想像豊かな内容に心がほぐれた気がするのです。目に見えないトロルが、どこかで愛し合ったり、ご飯を作ったり、子どもと過ごしている姿を想像するように、身近なことに想像を膨らませるのを楽しみたいなと思いました。
紹介している本に関連してアイスランド関連の本をいくつか読んでいる中で、岩波ジュニア新書から出ている、島村 英紀 著『地震と火山の島国』がアイスランドのことを興味深く書いています。子ども向けで読みやすく、それでいて火山・大地の成り立ちなど地質学に関わる真面目な内容もあればアイルランド人の人柄が暮らしが分かるエッセイ的な内容もあり飽きが無く、アイスランド自体への関心が深まることと思います。
次回もどうぞよろしくお願いします。