こんにちは!2月は日が少ないこともあって月の半ばを過ぎると3月はすぐそこかのように思われて、時間の流れが急ぎ足ですね。そんなせわしい時ではあれど、同時に春の気配を探しはじめたくもなります。私などは、ベランダで育てているブルーベリーやバラから新しい芽が出るかどうかドキドキし始める頃です。
さて、本日紹介をするのは、
富安 陽子 文 山村 浩二 絵
です。
富安陽子さんは数多くの児童書を書かれており、私が出会った本の多くは日本の妖怪や鬼・神様が関わっており、日本の文化を語り継いでいく大事な作家さんだと思っています。
そういいながらも実はお名前を認識したのは大人になってからで、子どもの頃に親戚が持っていた『キツネ山の夏休み』を譲り受けて読んだのが初めての出会いでした。恥ずかしながら記憶に残っているのは"水まんじゅう"が美味しそうという印象のみで、大人になって和菓子屋さんで水まんじゅうの実物を見かけても、話の中に出てくる(記憶を改ざんしている可能性があります)桶の水につけた水まんじゅうを実際に見ないと本物と信じられない心持ちでいたので、実物をそのとき食べたのかどうかはあまり記憶が定かではなく、物語の中でいつまでも憧れ続ける食べ物を生み出した、というのが私の中の富安陽子さんです。
きっと他の人はもっと違うところに心がひっぱられたのと思います。富安陽子さんは何十冊にも渡る物語を生み出し、私は全てを読破することも現状ままならないのでありますが、どの本も対象が誰かを考えてどのように描くかというのをとてもよく考えられているのが伝わります。
例えば『オニのサラリーマン』は対象年齢が5・6才だそうで、読み聞かせが楽しい絵本になっています。オニの話し言葉が方言まじりで、子どもにとって耳慣れない言葉遣いではあれど、声に出して読むとそのリズムの心地よさを感じとることが出来るのではないかと思います。
はたまた『天(あめ)と地(つち)の方程式』では、全4巻にわたるミステリー要素を含んだ読み応えのある物語となっています。日本神話を題材にしており、天ツ神・黄泉ツ神の戦いに中学生の主人公たちが巻き込まれていき、それはもう少年漫画を読んでいる時のようなハラハラドキドキ感がありました。
そうして上記にあげた本以外でも、これまで読んできた本を振り返ってみるとどの本も日本に昔から伝わる妖怪や神様などを絡めて描いているという共通点が浮かび上がってきます。むしろ日本的な要素を抜かした物語を書くことがあるのかをまだ自分は突き留められてはいませんが、それだけの熱量と知識で多くの子どもたちに日本古来のものを語り継いでいこうという想いが伝わってきます。
そんな作者さんだと知ったからこそ、自分が日本について学びたいと思った時に頼ったのがこの『絵物語古事記』という本です。
『古事記』というと、漢字を羅列した名前の神様がたくさん登場し、天岩戸に閉じこもることで太陽が隠れてしまったり、ヤマタノオロチと対決するという断片的で漠然としたことしか知らず、学ぼうにもどこか自分にも入りやすい入り口は無いかと探していた頃がありました。この本であれば子どもにも分かりやすく物語に入り込むことが出来ます。
神話というと、ギリシャ神話を読んでいるときに唐突な展開や出来事によってすっと現実に引き戻されることがありました。ゼウスの頭が割れてアテネが出てきた、という場面に出くわしたとき、絵面が上手く想像出来ず思考が止まってしまうことがありました。文字で追うとそうなってしまうのかと思い、次にYoutubeを頼って神話の解説動画を見ました。不可思議な出来事を面白く印象的に伝える動画で、これは『桃太郎』のおじいさんが拾った桃をナタでぱかっと割って桃太郎が生まれたように、頭もぱかっと割れるのだとあまり現実な絵面に固執せずに納得することにしました。神聖な雰囲気は薄れましたが、コントのような扱いで想像したらなんとか物語を前に進められたのです。これは日本神話も同様に内容がすっと頭に入って来ないことがあり、だからといって物語をコントのように仕立てたいわけでは実際ないのです。自分のものの見方に困っていました。
それでも全編物語としてきちんと読みたいと思っていたときに出会ったのが、今回紹介をする『絵物語古事記』です。この本は物語として読みやすいです。物語を数ページごとに区切り、それぞれに見出しを付けることで内容を掴みやすくしてあります。また、中心人物を据えて物語を描いているので話に入り込みやすいです。常識を超えた出来事に上手く入り込めなかったことが読めない原因だと思っていたのですが、物語の読み方を整えることでこんなに読みやすくなるとは思っていませんでした。こうなってくると不思議な出来事についても唐突さに驚くような怖さよりも、神秘的な出来事という面が際立って面白いと感じ始めるのです。
そして、絵面が想像出来ないと思っていた物語に湯気の立ち上がりのような絵を付けたのが山村浩二さんです。二柱の神様から日本が生まれてくる様子や皮をはがされた稲羽白うさぎなど、絵にするのが難しそうなさまざまな局面を豊かな創造性のある絵で描かれていて、とても素晴らしいと思いました。全ページに絵が入っていて物語を読み進める上で大変助けになります。
豊かな想像力と物語の上手な運びによって神秘性を感じるこの本は、初めて『古事記』に触れるのにおすすめです。大人でも神話に難しさを感じている方がいましたら、子ども向けだと思わず、ぜひ手に取ってみてください。
また次回も富安陽子さんの本を紹介する予定です。大人になって読んだやはり美味しそうな食べ物が出てくる物語です。
それとご報告です。本日よりブログのタイトルを「子どもの本棚」から「おでん文庫の本棚」に変更しました。タイトルは変わっても投稿する内容はこれまでどおりです。考えているといえば、ブログの名前変更に伴いデザイン自体を例えばからし色やだし色に変更しようか悩み中です。
それではまた次回もどうぞよろしくお願いします。