おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

かわいくて度胸のある日本の山神さまの物語

 こんにちは!桜が咲いている季節になると、雨が心配になります。これから数日は天気が崩れるそうで、強い雨にならないことを願います。家の中では乾燥機がズゾゾゾゾと音を立ててお仕事中。こちらはしばらくお世話になります。

 

 本日紹介するのは、日本を舞台にしたかわいい山神さまの物語です。

 

 『小さな山神スズナ姫 (小さなスズナ姫)』

 富安 陽子 作 飯野 和好 絵

 

 この物語はシリーズ化されていて、今回紹介するのは全4巻あるうちの第1巻にあたります。

 

 表紙にいるスズナ姫は見た目はまだまだ小学校低学年くらいの子どもです。ですが実際は、もうすぐ300才の誕生日を迎えようとしています。お父さんは喜仙大厳尊(きせんおおいわのみこと)と言い、喜仙山脈一帯を預かるりっぱな山神さまです。

 

 喜仙大厳尊はスズナ姫をまだまだ小さい子どものように扱いますが、スズナ姫は勇気と度胸を併せ持っており、喜仙山脈にあるスズナ山を賭けて喜仙大厳尊に勝負を挑むことになります。山神としての力と、山に住む動物たちの力を借りて大仕事をする展開はなかなかに華やかです。

 

 前回紹介をした朝鮮の絵本では、人々の山への信仰が伝わる内容でしたが、今回は、日本の山の神様はどんなことをしているのかが伺える内容となっています。朝鮮の絵本では、ほんとうに人々が厳しい状況の時に現れる救世主のような扱いであった山の巨人に対して、日本の山神さまは、常に側で寄り添っているような存在で描かれます。

 

 というのも、自然現象について、例えば「恵みの雨」という言葉は、誰かからもたらされる印象を受けます。また、季節による木々の色の変化のことを「木々が染まる」と表現しますが、染まるというというのも誰かの力によって引き起こされているような、そこに誰かの力が作用しているような言い回しに聞こえます。

 

 これは自分の想像なのですが、そういった言葉の言い回しから感じるように、これは目に見えない何者かの仕業であると、どこかで思っている節があるのではないかと思います。

 

 物語の中では、山神の仕事は山にいる植物や動物などそこに住まう生きものたちの命を見守り、自然をみつめて、全てが正しくめぐるように心を配るとあります。四季の変化の豊かな日本という国では、山神さまはやることが常にあってとっても忙しいんじゃないでしょうか(ガーデニングや畑仕事がm絶え間なくやることがあると聞くように)。山ごとに山神さまは宿っていると聞きますので、出張仕事が少ないのはまだ救いかもしれません。山があるだけ神様もいて、それぞれの土地の人たちに四季折々を届けているということを、特別に意識して過ごしているわけではありませんが、でもどこかでよその何かに感謝している気持ちを持ち合わせていて、それが山神さまを身近に感じることと結びついているように思いました。

 

 そして、勤勉な日本の人たちと神様の忙しそうな状況が似ているところは親しみが湧きます。そうです、もうひとつ特徴的と言えるのが、山神さまもとい神様の親しみやすさです。七福神の絵など想像すると、いつもにこにこの笑顔であったような気がしているし、出雲大社八百万の神様が集まって宴会を開くという話や、日本神話にある天照大神が天岩戸に引きこもった時に神様たちが岩戸の前で宴会を開くという話から、神様という存在は人間臭く親しみやすい面を持ち合わせていると感じます。

 

 日本ならではの自然を感じることが出来、また日本の神様も伝え残していく物語として、これからも読み継がれていってほしいです。

 

 ちなみに、富安さんは『空へつづく神話』でも山神さまを扱った物語を描いています。こちらは記憶を失った白髭のおじいさん神様が、小学6年生の理子の前にとつぜん現れ、自分の記憶を取り戻してほしいとお願いするところから物語が展開していきます。謎解き要素があり、途中で何を信じればいいのか分からなくなり不安になったりと、盛り上がる展開で面白いです。

 

 あとがきを読むと、創作物語の領域に留まらず、時代とともに変化していく土地の在り方を知るきっかけになります。一切を捨てて変わるのか、それとも残していくものがあるのか。新しいものが生まれてくる中にも、実はきちんと昔のものが踏襲されているかもしれないと思うと、時代の変化がはやいと言われてても、そこに芯の部分が残っていば大丈夫なのかな、とも考えます。

 

 それでは次回は、山の本を1冊を紹介して、その後はおでん文庫の4月のテーマ本の紹介に移ろうと思います。

 またどうぞよろしくお願いします。