おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

エベレストとシェルパ 絵本からみえる世界

 こんにちは!ここ数日、天気が崩れているため、洗濯物が良く乾かずに生乾きの香りをはなっています。とほほ~。雨が追い打ちをかけるようなかたちで、桜の見頃がそろそろ終わりを迎えそうなので、花びらを1枚拾って持って帰ってきました。ひらひら舞う花びらをキャッチしたころもありましたが、地面に落ちた花びらを拾うのでも、愛おしさが湧くものです。

 

 さて、今回でいったん一区切りとなる山の絵本をご紹介です。チョモランマもといエベレスト登山を題材にした物語です。

 

 シェルパのポルパ エベレストにのぼる』

 石川 直樹 文 梨木 羊 絵

 

 この絵本は、実際に登山家として活動し、エベレスト登頂も果たしている作者が執筆したことに見所があります。そしてエベレスト山腹に暮らす民族で登山ガイドとして重要な存在であるシェルパが主人公であることにも注目したいです。

 

 エベレストといえば世界最高峰の山として君臨しており、世界中から登頂に挑戦する登山家がやってきます(小説家の唯川 恵さんが『バッグをザックに持ち替えて』でエベレストを行けるところまで登った経験を書いているのに驚いたことがありました)。

 

 山はチベットとネパールの境にあり、高さは8848.86メートルともなると富士山の3376メートルを遥かに超える高さで、やすやすと人が立ち入れるような場所ではなく、ましてや無事に生きて登って帰って来れるのかどうかも分かりません。

 

 山の高度が高いとそれだけ空気が薄くなり、呼吸は深く早く、いつもなら何も考えずに踏み出せる一歩でも、ここでは大変な困難だといいます。空気が薄いために酸素ボンベを付けながら登山するという状況を、なかなか日常生活の中では想像することが難しく感じます。それほど同じ地上でありながらも別世界の場所なのです。

 

 作者は2001年、当時23歳と若くしてエベレストに登頂しており、その他にも七大陸最高峰登頂を果たしています。そうした登山家の一面を含めて、自分の目で世界を見ようとする姿勢を貫いている方で、世界各地を旅した思い出たちを自身の写真と言葉で私たちに届けています。

 

 どの記事か忘れてしまったのですが、雑誌「Coyote」に寄稿していたエッセイが作者を知ったきっかけでした。記事を読んだことが印象に残りそれからずっと存在が気になっていて、のちに2011・2021年出版の本を読んで驚いたのが、10年の歳月を得ても変わらない部分がはっきりとしていて、行動の芯がぶれずにいることです。

 

 歳を重ねる毎に痛い思いをして学ぶことがあっても、自信を持てずに右往左往、なんていうゴールのない円をぐるぐる回っているような自分からみると、作者は本当に大事なことを、他のものに惑わされずにずっと貫いているように見えます。

 

 その作者がシェルパの友だちに会いに行く エベレスト街道日誌2021』という本を出版してます。2020年に現れたコロナによって人々の生活が一変し、誰もが苦しい状況下の中、友だちのために出来ることを考えて行動に移します。友だちのシェルパシェルパの存在を登山のガイドと括るには、2人の間で越えた様々な物語がありすぎるのだと思います。今回紹介する絵本では、登山家ではなくシェルパを主人公に迎えて物語を描いていることに意味を感じます。

 

 シェルパは、1953年に世界で初登頂を果たした登山家のガイドとして共に登頂を果たすなど、エベレスト登頂を目指す物語には今のところ必ずシェルパの文字を見かけます。彼らにとって登山ガイドは稼ぎの仕事としてある一方で、山登りへの情熱を持つ者もあります。ただ、氷壁から転落や凍傷で指を切断なども起こり得る命がけな仕事を、自分の情熱のためだけではなく、一緒に登る仲間のためにと、先陣を切ったり、声掛けをして気遣うシェルパたち。人の好さがあり、登山家たちが心を許して信頼する姿がエベレスト登山の物語を読んで伝わってきます。

 

 今回紹介する絵本は、そんなシェルパのポムパが初めてエベレスト初登頂を目指す物語です。作者の本を読んだ後になって、シェルパになりたい山が好きな子どもと実際に触れ合ったのかな、とか、実際に見て伝えたくなった景色が盛り込まれているのかな、と想像が膨らみました。作者自身が登山家でありながら、スポットをシェルパに向けるところにも、作者の見たものを伝えようとする在り方を感じています。

 

 少し話が逸れますが、私は読んだ本のことを今こうして文章にしながら、このブログが何になるのか考えるときがありました。本を読んでも、あくまで自分はエベレストに登ってはいないし、何か特別な体験を提供出来るものでもないし、知識がつくものでもない。読んで心に残った本のことをただ書いているだけだと。

 

 それが今回、作者の本をいくつか読んでいる中で、自分が体験したことは自分だけのものだけど、何かを成したかたちが重要なのではなくて、例えばそこにいる人達のありのままの姿や風景から伝わる、目に見えないものが読者の心の中に残るのかなと思いました。作者の芯にある伝えたい、という気持ちが、視界を開かせてくれるような、それこそ自分が一歩踏み出す心を持たせてくれました。

 

 そのことに気が付いたので、ブログも引き続き、何かを提供しようという考え方ではなくて、伝えたいものが何かを意識して書き続けていこうと思います。

 

 ちなみに今回の絵本の中で好きなページがあり、そのページを見た時に感動したのです。それでこの絵本が好きになりました。

 

 次回の更新では、おでん文庫の4月の本棚を紹介予定です。テーマは【友だち】です。以前紹介をしたクヌギ林のザワザワ荘』とその他4冊…と思っていますが、まだ悩んでいます。またどうぞよろしくお願いいたします。