おでん文庫の本棚

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夢物語が始まる

 こんにちは!クリスマスが過ぎて、ここから大みそかまであっという間にやってきそうですね。ふたを開いてみればありがたいことに今年は人の縁に加えて仕事の縁に恵まれた1年でした。このブログも忙しい中でも、毎週書くことを決めて取り組んでいましたが、収入とは関係なくやりたいと思う活動を続けていることが、気が付いたら心の支えにもなっていました。ほんとに、至らないところもたくさんあるのですが、こうして年の終わりという節目までたどり着けて嬉しいです。

 

 さて本日紹介するのは、イギリスで生まれたキャラクター、マーティン・ピピンが語る物語の数々の不思議な世界です。

 

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 『ファージョン作品集 5 ヒナギク野のマーティン・ピピン

 エリナー・ファージョン 作 石井 桃子 訳 イズベルアンドジョン・モートン=セイル 絵

 

 初版が1974年とあるので、こちらの本を読んだことがある方は多くいらっしゃるかもしれません。実際、この本をおでん文庫の本棚に収めに本屋へ行ったとき、一緒に行った人形劇の友人がファージョンの本を読んだことがあると教えてくれて盛り上がりました。こんなに近くに読んでいる人がいるとは!

 

 そのときは友人と、歌うような美しい言葉の連なりを原文で読んだらさぞ美しいのだろうね…と話していたのを思い出して、図書館にあった原書を先日借りてきました。

 

 序章の部分を少し読んだばかりで書くのもおこがましいかもしれませんが、原書を読んでいてふと気になることがあります。原書の!マークで表現される感情は、現地ではどのくらいの感情の高ぶりなのでしょうか。日本語に置き換えるときには、!マークから受ける強い押しを、!マークは使わずに静かに響かせる方が感情がこもっているように感じることがあります。

 

 以前、『ハイジ』の翻訳された本を見比べたときにそう思ったことがありました。アルムのおじいさんが、ハイジの行動に「この子はものをよく分かっている」(表現は本によって様々でした)と感嘆する独白で、!マークがついている場合とない場合がありました。自分の中でのイメージでは、おじいさんに!マークがあると演技が過ぎるように感じ、!マークが無い方が、しっかりした大人がハイジが聡明な子であると感じるところに説得力があるように感じました。

 

 今は仕事のメールやチャットで!マークを見る機会も増えてきたので、!マークになじみが増えてきているかもしれませんが、原文のまま!マークを使うとどうなるか、ちょっと書いてみます。

 

 おとめ、おとめ、うるわしのおとめ! 若葉のおとめ!

 

 !マークを無しにすると下記です。

 

 おとめ、おとめ、うるわしのおとめ 若葉のおとめ

 

 情熱的なパッションを感じる前者と、なんだか光源氏を彷彿とさせる雅な響き。現代だったら、このそれぞれの印象の隔たりをどのように言葉を置き換え表現するのだろうと考えたところで、自分には英語をカタカナ(おとめ→レディ)で書く、くらいの案しか思い浮かばず…。そもそも!マークの強い印象は、漫画からなのか…など、考えてたら、書くことがこの話で終わってしまいそうですね。

 

 物語の歌い手であるマーティン・ピピンの物語は、『リンゴ畑のマーティン・ピピンとその続編となるヒナギク野のマーティン・ピピンがあります。『リンゴ畑のマーティン・ピピン』は、年頃の娘たちに聞かせる恋物語が主となっていますが、『ヒナギク野のマーティン・ピピン』は子どもたちに聞かせる物語が主となっています。縄跳びの話がとても印象に残ったのですよね…。

 

 12月の本棚テーマとして選んだのは、子どもたちにかけられたナゾをマーティン・ピピンが解く、という大筋があることからこの本選びました。ただ、ナゾ自体が物語のカギを握っているのかというとそうではなく、ナゾを掛け合いに出して、マーティンが物語を語り、子ども達の心を少しずつ掴んでいく、のと同じように読者の心も掴んでいくところに魅力を感じたためです。

 

 また、自分にとって、こうした物語の語り部という存在はナゾがいっぱいあります。どこから物語が生まれてくるのか、どうして気になってしまうのか、どうして物語が唐突なのか、などなど。

 

 前回の記事で、大人にも想像することがあってよいという話をしたのですが、物語を書くのも語るのも、大人(物語だと年齢を重ねている人の方がその役割をすることが多いように思います)で、そうした人たちは特別なのではなく、日常の中から想像のヒントを得て、それが自然と物語に結び付いて、生きる知恵や学びが物語に含まれている場合もあるのかなと考えたのですが、こうした教訓めいたものは、ある意味で感じ取りやすいというか、言語化しやすいしがします。悪いことをするとバチがあたる、正しく生きていればいいことがある、などです。

 

 それに対して、今回紹介する本は、突拍子の無い非現実的なことが展開し、翻弄されて、最後に、これは一体なんだったんだろうと不思議に取り残されて、でもとても強い印象を残していきます。『リンゴ畑のマーティン・ピピン』は、恋愛を絡めた感情の揺れ動きなど人間味を感じるところに現実と繋がっているところがあるのですが、『ヒナギク野のマーティン・ピピン』は物語をなんといったらよいか、ナゾです。こういう物語は掴みどころが何なのか、説明が難しく感じてしまいます。でも面白いです。あまり教訓めいたものが感じられないところで、スカッと読めるのかもしれません。

 

 それに最近、家の近くの川で散歩をするときに、耳を澄ませて自然の中の音を聞いたり、鳥たちをよく目で追ったり、見たたままを感じようとしてるのですが、そういう、作られたものでなくてあるがままの世の姿を、作者のファージョンは、不思議なことが起こる世がまるで当たり前であるかのように平然と描き切るところが、面白いなあと感じさせれます。イギリスという土地から生まれるファンタジーは、子どもの楽しい夢が広がっていくようなところが、魅力的ですよね。分厚い本なので、年末年始にうたたねしながら、たのしい空想世界に飛んでいけたらきっと、最高の年末年始です。

 

 ということで、今年の本紹介はこちらで最後となります。最後までお付き合いありがとうございました!今年は棚借りを始め、ブログも本腰入れて書くようになり、本棚を通じてたくさんの本と出会えました。いろんな人たちとちょっとずつ本の話をする機会も広がりました。

 

 それに今年は1年で230冊以上を読むことが出来ました。棚の本を紹介するために、必死で読んだ本が多かったのですが、おかげで読むことについて自分の考えや自信がちょっとずつ芽生えてくる実感がありました。読書が生きる力になることは身を持ってそうだといえます。なので、読書をするきっかけとなる発信は来年も続けていきたいと思います。

 

 来年の本棚については、改めて記事を更新してご案内をする予定です。それにしても、2024年の本棚テーマや置く本をおおよそ決めていたのですが、最近読んだ『塑する思考』という、「明治おいしい牛乳」のパッケージなど多くのデザインを手がけた佐藤 卓さんの思考に触れたら、このまま進めていいのかな…と迷いが生まれて、心が揺れています。ぎりぎりまで、考えてみようと思います。

 

 ではでは、また次回もよろしくお願いします。

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