おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

夢物語が始まる

 こんにちは!クリスマスが過ぎて、ここから大みそかまであっという間にやってきそうですね。ふたを開いてみればありがたいことに今年は人の縁に加えて仕事の縁に恵まれた1年でした。このブログも忙しい中でも、毎週書くことを決めて取り組んでいましたが、収入とは関係なくやりたいと思う活動を続けていることが、気が付いたら心の支えにもなっていました。ほんとに、至らないところもたくさんあるのですが、こうして年の終わりという節目までたどり着けて嬉しいです。

 

 さて本日紹介するのは、イギリスで生まれたキャラクター、マーティン・ピピンが語る物語の数々の不思議な世界です。

 

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 『ファージョン作品集 5 ヒナギク野のマーティン・ピピン

 エリナー・ファージョン 作 石井 桃子 訳 イズベルアンドジョン・モートン=セイル 絵

 

 初版が1974年とあるので、こちらの本を読んだことがある方は多くいらっしゃるかもしれません。実際、この本をおでん文庫の本棚に収めに本屋へ行ったとき、一緒に行った人形劇の友人がファージョンの本を読んだことがあると教えてくれて盛り上がりました。こんなに近くに読んでいる人がいるとは!

 

 そのときは友人と、歌うような美しい言葉の連なりを原文で読んだらさぞ美しいのだろうね…と話していたのを思い出して、図書館にあった原書を先日借りてきました。

 

 序章の部分を少し読んだばかりで書くのもおこがましいかもしれませんが、原書を読んでいてふと気になることがあります。原書の!マークで表現される感情は、現地ではどのくらいの感情の高ぶりなのでしょうか。日本語に置き換えるときには、!マークから受ける強い押しを、!マークは使わずに静かに響かせる方が感情がこもっているように感じることがあります。

 

 以前、『ハイジ』の翻訳された本を見比べたときにそう思ったことがありました。アルムのおじいさんが、ハイジの行動に「この子はものをよく分かっている」(表現は本によって様々でした)と感嘆する独白で、!マークがついている場合とない場合がありました。自分の中でのイメージでは、おじいさんに!マークがあると演技が過ぎるように感じ、!マークが無い方が、しっかりした大人がハイジが聡明な子であると感じるところに説得力があるように感じました。

 

 今は仕事のメールやチャットで!マークを見る機会も増えてきたので、!マークになじみが増えてきているかもしれませんが、原文のまま!マークを使うとどうなるか、ちょっと書いてみます。

 

 おとめ、おとめ、うるわしのおとめ! 若葉のおとめ!

 

 !マークを無しにすると下記です。

 

 おとめ、おとめ、うるわしのおとめ 若葉のおとめ

 

 情熱的なパッションを感じる前者と、なんだか光源氏を彷彿とさせる雅な響き。現代だったら、このそれぞれの印象の隔たりをどのように言葉を置き換え表現するのだろうと考えたところで、自分には英語をカタカナ(おとめ→レディ)で書く、くらいの案しか思い浮かばず…。そもそも!マークの強い印象は、漫画からなのか…など、考えてたら、書くことがこの話で終わってしまいそうですね。

 

 物語の歌い手であるマーティン・ピピンの物語は、『リンゴ畑のマーティン・ピピンとその続編となるヒナギク野のマーティン・ピピンがあります。『リンゴ畑のマーティン・ピピン』は、年頃の娘たちに聞かせる恋物語が主となっていますが、『ヒナギク野のマーティン・ピピン』は子どもたちに聞かせる物語が主となっています。縄跳びの話がとても印象に残ったのですよね…。

 

 12月の本棚テーマとして選んだのは、子どもたちにかけられたナゾをマーティン・ピピンが解く、という大筋があることからこの本選びました。ただ、ナゾ自体が物語のカギを握っているのかというとそうではなく、ナゾを掛け合いに出して、マーティンが物語を語り、子ども達の心を少しずつ掴んでいく、のと同じように読者の心も掴んでいくところに魅力を感じたためです。

 

 また、自分にとって、こうした物語の語り部という存在はナゾがいっぱいあります。どこから物語が生まれてくるのか、どうして気になってしまうのか、どうして物語が唐突なのか、などなど。

 

 前回の記事で、大人にも想像することがあってよいという話をしたのですが、物語を書くのも語るのも、大人(物語だと年齢を重ねている人の方がその役割をすることが多いように思います)で、そうした人たちは特別なのではなく、日常の中から想像のヒントを得て、それが自然と物語に結び付いて、生きる知恵や学びが物語に含まれている場合もあるのかなと考えたのですが、こうした教訓めいたものは、ある意味で感じ取りやすいというか、言語化しやすいしがします。悪いことをするとバチがあたる、正しく生きていればいいことがある、などです。

 

 それに対して、今回紹介する本は、突拍子の無い非現実的なことが展開し、翻弄されて、最後に、これは一体なんだったんだろうと不思議に取り残されて、でもとても強い印象を残していきます。『リンゴ畑のマーティン・ピピン』は、恋愛を絡めた感情の揺れ動きなど人間味を感じるところに現実と繋がっているところがあるのですが、『ヒナギク野のマーティン・ピピン』は物語をなんといったらよいか、ナゾです。こういう物語は掴みどころが何なのか、説明が難しく感じてしまいます。でも面白いです。あまり教訓めいたものが感じられないところで、スカッと読めるのかもしれません。

 

 それに最近、家の近くの川で散歩をするときに、耳を澄ませて自然の中の音を聞いたり、鳥たちをよく目で追ったり、見たたままを感じようとしてるのですが、そういう、作られたものでなくてあるがままの世の姿を、作者のファージョンは、不思議なことが起こる世がまるで当たり前であるかのように平然と描き切るところが、面白いなあと感じさせれます。イギリスという土地から生まれるファンタジーは、子どもの楽しい夢が広がっていくようなところが、魅力的ですよね。分厚い本なので、年末年始にうたたねしながら、たのしい空想世界に飛んでいけたらきっと、最高の年末年始です。

 

 ということで、今年の本紹介はこちらで最後となります。最後までお付き合いありがとうございました!今年は棚借りを始め、ブログも本腰入れて書くようになり、本棚を通じてたくさんの本と出会えました。いろんな人たちとちょっとずつ本の話をする機会も広がりました。

 

 それに今年は1年で230冊以上を読むことが出来ました。棚の本を紹介するために、必死で読んだ本が多かったのですが、おかげで読むことについて自分の考えや自信がちょっとずつ芽生えてくる実感がありました。読書が生きる力になることは身を持ってそうだといえます。なので、読書をするきっかけとなる発信は来年も続けていきたいと思います。

 

 来年の本棚については、改めて記事を更新してご案内をする予定です。それにしても、2024年の本棚テーマや置く本をおおよそ決めていたのですが、最近読んだ『塑する思考』という、「明治おいしい牛乳」のパッケージなど多くのデザインを手がけた佐藤 卓さんの思考に触れたら、このまま進めていいのかな…と迷いが生まれて、心が揺れています。ぎりぎりまで、考えてみようと思います。

 

 ではでは、また次回もよろしくお願いします。

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大人がみつけるワクワクの種

 こんにちは!頭の中で書きたい言葉が浮かばずに、ブログを書けなかったらどうしようと思うことが度々あるのですが、いつも最後にこの前置きを書く段階になってやっと心が休まります。今日はこのあとの時間はベッドでぬくぬく読書を楽しむとします。

 

 さて本日紹介するのは、夜の学校で起こる奇妙なできごと…ナゾに出会う本です。


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 『夜の小学校で』

 岡田 淳 作・絵

 

 岡田 淳さんの本は、自分は大人になってから友人の紹介で知ったのですが、子どもの頃に読んでいた、という方もいらっしゃるでしょうか。図書館のHPで蔵書を調べると何十冊ものタイトルが表示され、自分が子どもの頃はどこに目を付けていたんだ、と疑いたくなりました。

 

 これだけの冊数があると、出会った本も人それぞれ異なった回答になるかもしれませんね。そんな中で今回紹介する本は、12月の本棚テーマ【ナゾ かいけつ?】になぞらえて選んだ一冊となります。

 

 夜の学校というと、学校の七不思議を筆頭とした怖い話が頭に浮かびます。踊り場の鏡、3番目のトイレ、音楽室のベートーヴェン、日の射す時間は何でもないのに、日が落ちる時間帯から夜に駆けて、にぎやかな子どもの声は消え、長い影を落とす校舎の雰囲気ははっとすると、不気味に映ります。

 

 それでも、夜の小学校という昼間と一変して別の生き物と化した未知の存在は、こうしてタイトルに書かれていると手に取りたくなるくらい、魅力的です。

 

 ところで作者の本でよく気が付くのが、子どもではなく大人が不思議に遭遇するという状況です。子どもが主人公であることは児童書によくあると思いますが、大人が当事者というのは、子どもの頃に読んでいたら、このことをどう感じるのか、何か思うことがあるのか、それとも気にならないのか、気になるところです。

 

 大人の自分が読んだときは、”ありえない”できごとを突き放さずに、ちょっとワクワクしているところがいいなあと感じました。こんなことあるわけない、と想像することを止めたら、そこで終わってしまう。この考えを中断したり、止めたりすることを自分は日常でやりがちです。

 

 明日、プレゼンがうまくいくといいな。でもきっと最終的には中の下くらいの結果に落ち着くだろうな。下の下でなければまあ合格点かな。

 

 と、何かを行うときに、結果の一番上の良い状態と下の悪い状態を想像し、おおよそ、その間で決着がつくことを期待して、それ以上の上を見ようとしない。もしくは見る暇もない、はたまた良い結果を期待しすぎる気持ちを抑え込むなど。あるあるです。

 

 そうしてみると、どうやら自分の考えの範疇に収まっていることが日常、想像するのは本の中の世界と割り切っている節があることに気が付きます。

 

 読書で見聞を広げたり、想像を広げる、みたいな言葉をどこかで聞きかじったことがありますが、想像を広げる、そもそも想像をするって何なのだろうってずっと考えています。

 

 この次に紹介をするヒナギク野のマーティン・ピピンの作者であるエリナー・ファージョンについて、訳者の石井 桃子さんが寄せたあとがきを読んだあとも考えていました。

 

 自分は、物語を書くというのは、頭の中で生み出された想像の世界をかたちにすることで、漠然と出発点は頭の中…と捉えていましたが、様々な本と出会う中で、作者のコメントに、物語を書くにあたり、日常であった出来事を発端に物語が広がる、といった内容が書かれていることがあります。

 

 つまりは、頭の中で物語を想像してかたちにするけれども、それより前に、日常から刺激を得るという道のりがあることになります。

 

 読者が本から想像の世界を広げるのとは逆で、書き手は日常から想像を広げている、というのは実は灯台下暗しで、本の中だからこその不思議な世界なのではなく、日常の中に不思議の種が眠っていると言われているように思えてきます。

 

 そうなってくると、”書き手任せに物語から想像を広げる”という受け身だった考えを、岡田 淳さんの本を読んでいると改めます。大人が不思議の当事者となって、日常から不思議の世界に繋がるように、日常の中にもワクワクするものが潜んでいるということです。大人の世界にも、です。

 

 ではそれなら、ワクワクの種はどうやって探せばいいのだろうかと、また壁にぶつかります。作者の本を読みながら、言葉の起源を追うように、その種を探そうとします。しかし、雲をつかもうとするみたいに何にも掴めない。これは自分の想像力が無いせいなのだろうか…。

 

 今結論を出すことは難しいのですが、これは、ワクワクの種は人それぞれに違うのではないかと思います。想像というものが本当に自由なもので、答えがないからこそ、自分の想像の種を、日常の中からよくよく見つめて、眺めてみることな気がします。

 

 人それぞれというのも、プライベートで絵を描くことをしているのですが、自分が描いた絵が見る人によって違う感じ方をしていることに気が付くことがありました。意図をもって書いているようでいて、誰かの目を通すと、鏡みたいにそれはもう作者と関係ないところで、絵と人の間に関係ができているように思います。

 

 そんな風に、自分の感じたものが必ず人それぞれ持っているはず。作者のことを知ろうとすることも読書の楽しみを深めることになるはずなのですが、想像の世界というのは、自分の感覚を育んでいく、本を通して自分を見つめることの方が大事に思えてきます。私は、大人を主人公とした物語の最後にハッとさせられました。子ども向けでも、大人にも何かを感じさせる、そんなところがある本です。

 

 さて、とうとう次回で今年最後の本紹介となります。ここまでお付き合いを本当にありがとうございます。次回もどうぞよろしくお願いします。

 

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山の頂上を目指して全8巻と続く旅

 こんにちは!いつもこの前置き部分の文章を最後に書いているのですが、前回の記事の更新のときに書きかけのままアップしていました。うっかりです。次回から気を付けます。

 

 さて、本日紹介するのは14匹のねずみシリーズでご存知の方も多い、いわむら かずおさんの本です。

 

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 『トガリ山のぼうけん① 風の草原』

 いわむら かずお 作

 

 このブログの一番最初の記事で紹介したのが、いわむら かずおさんの絵本だったですが、今振り返ると懐かしいです。最初に書く記事は日本人の作者の本にしようと決め、出来る限り作者のことを調べた上で書こうと意気込んでいました。とはいえ、文章を書いてまとめることをこれまでの人生でほとんど行ってこなかったので、当時に書いたものを今見直すのはとても恥ずかしく、リンクを貼るのは控えようと思います…。

 

 その当時から栃木県にある「いわむらかずお絵本の丘美術館」へ行きたいと思いながら実現せずにそのまま今に至り、いつかの日を楽しみにずっと胸に留めていました。それが、少し前に友人から美術館の近くへ寄ったお土産にと、秋めいた色の美しいポストカードと14ひきのねずみのノートをもらい、気持ちがちょっと浮かばれるといいますか、とにかく嬉しかったです。12月になるまでずっと机に飾り、日々励まされていました。その隣には人形劇の友人から届いた、目がくりっとして少しふてくされたような顔をしたぬいぐるみのポストカードを置いて、この2つのアンバランスも楽しんでいたというのも、書き添えておきます。

 

 いわむら かずおさんと言えば14匹のねずみの絵本の人という印象が強かったのですが、今回紹介する本は読み物としても充実した本となっています。それに本全体の完成度も、時間をかけてよく考えて作られているのが伝わってきます。

 

 詳しくは追って書くことにして、上に書いているように、絵を描く人としての印象が強かったのですが、『ひとりぼっちの さいしゅうれっしゃ』という絵本、ちなみにこれが今調べて絵本と知りましたが、読み物として文章にのめり込んで読んだので、絵本ではなく読み物だと勘違いしていました。

 

 この絵本は、これまで知っていた14匹のねずみのシリーズのような幼児向けの絵本よりも対象年齢を、自分の体感としては小学校中~高学年くらいまで上げた作品となっており、訴えてくる内容はさらに上の大人にまで通用すると思います。人間社会がこちらの都合で自然を壊していることに対して警鐘を鳴らしている、そんな内容に感じました。

 

 背筋がぞくっとするような緊張感が張り巡らされており、そうした演出効果が文章からだけではなく、よく練られたページの構成によって演出効果を盛り上げています。雰囲気が全然違いますが、14匹のねずみとこの絵本の根っこにある、自然との親密さがあるところに作者を感じさせます。

 

 そして、今回紹介する本についても、本を読む人のことを第一優先にして、よくよく考えて作り込んでいることが伝わってきます。子ども向けの本作りについて考えたいと思っている人には、個人的にはいわむら かずおさんの本をお薦めしたいです。

 

 今回の読み物は、文字量が幼児向けの絵本よりもずっと多く、確認したところ135ページありました。それに加えて、本文の各ページ見開きに(おそらく全てに)鉛筆で描かれた見ごたえのある挿絵が入っています。

 

 通常ではこんなに挿絵を挟むことは考えられない気がする(効率の話で言えば時間が掛かりすぎる)のですが、それをしてみせたところに、制作への意気込みを感じます。

 

 実際の作業として、本文の内容(文章)と入れたい絵の位置が見開きで一致するようにすることがまず大変そうに思えます。それに、各見開きの絵を入れる位置やサイズも、制作上の都合ではなく、必要なバランスを考えて作られているので、その調整の繰り返しが何回発生するのでしょう…本当に想像するだけでもとてつもなく大変そうで、なんだか考えいると肩に重しがのしかかってくるようです。

 

 見返しについてはカラーの絵が全面に描かれていて、豪華です。それも前と後ろで違う絵で、尚且つ前と後ろで合わせて2枚、ではなくそれ以上の見開きカラーがあります。

 

 さらにさらに、この本は全8巻のシリーズもの。公式では全8巻を1991〜1998年に刊行したとあり、個人的にはこのペースはとても早いように思ってしまいます。

 

 物語は、トガリネズミのトガリィが一人前のネズミになるために、トガリ山のてっぺんを目指した冒険を、こどもたちに語って聞かせる回想録となります。

 

 てっぺんがどうなっているのか、出会う動物や昆虫たちも知らない。ナゾにつつまれた山なのです。自然の中をネズミのサイズになった気分で、広大な景色を冒険していくのは迫力あり、そして目に映る植物や出会うものたちへの好奇心も光ります。子どもなら冒険物語を純粋に楽しむのだと思うのですが、大人は本の作りから構成、見せ方、絵、さまざまな点でこの本を見るのが楽しいと思います。

 

 本を褒めちぎってまるで通販番組の宣伝のようになってしまいましたが、読み手のことを第一にして、よく考えて作られたこの本を少しでもいろんな人に知ってもらえたら嬉しいです。

 

 14匹のねずみの絵本を読んで大人になった方は、懐かしい気持ちでこの本を楽しめると思います。トガリ山についても、誰も知らないてっぺんのナゾを追って、全8巻を追いかけるのもまた楽しです。

 

 ではでは、次回もどうぞよろしくお願いします。

 

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解き明かされるのは心のヒダ?

 こんにちは!最近一段と冷えてきましたね。お家にこもる時間の読書、ワクワクして体があったまる本を今月は紹介していきます。

 

 12月のテーマ”ナゾ かいけつ?”で最初にご紹介するのはこの本です。


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 『ニレの木広場のモモモ館』

 高楼 方子 作 千葉 史子 絵

 

 作者の本とのはじめての出会いは、以前このブログでも紹介をした

『グドーさんのおさんぽびより』でした。

なかよし3人組のちょっと照れくさくて可笑しい日々 - おでん文庫の本棚

 

 佐々木 マキさんの描く、性別も年齢も関係なくつるむ3人組の絵にひかれて手に取ったのですが、物語もとても好ましかったです。

 

 勘違い、物忘れ、疑り、などなど、誰しもがやったことのある(自分はやりがちです)ちょっと恥ずかしい経験を笑い話として描いている、一見マイナスにとれそうな事柄を3人組はなんにせよ受け止めてくれる、という寛容なところを作者の中にも感じて、好感を抱きました。

 

 自分が人付き合いがちょっとでも得意であったら、もしかしたらこの本を読んでも琴線にピンとこなかったかもしれませんが、1回のしくじりをいじいじと考えてしまうような者にとっては、3人の伸びたり弛んだり弾んだりしながらも繋がっている関係に憧れが湧いてくるのではと思います。

 

 タイムリーな話では、南と華堂(なんとかどう)さんで棚を借りている方とお話をしたときにお薦めしていただいた、多部 未華子さん出演のドラマ「いちばんすきな花」でも、人との関わりを題材として挙げていると思います。

 

 現在では、さまざまな考え方を持った人が存在していて、それを認め合おうと考える人も多いと思います。そうした中でも、きっと昔も今も同じように、価値観を共有できる誰かと出会いたいと思う気持ちが誰しもにあるような気がします。(といいながらこんなの自分だけだったりして…)

 

 ドラマでは2人になれないひとり×4人が運命的な出会いをしますが、人に価値観を押し付けず、共感をできる仲間として成り立っているこの4人がとても貴重な関係に思えてきます。恋愛感情に振り回されず今の関係=友情を大事にしようとするところも、新しい価値観を打ち出しているように思います。

 

 そうした男女のボーダーライン無しに長く続く友情というものを続けていくのか、ドラマの展開が気になるところですが、個人的には変わらない友情もしくは関係が永遠であると思える未来を、期待したい気持ちが無くもないです。そうした理想的な関係を漂わせているのが『グドーさんのおさんぽびより』の3人組でもあるわけです。

 

 前置きが長くなってしまったのですが、作者の本ではそうした人と人との関係性や、心の機微などを繊細に捉えて描いているように思います。口に出す言葉と心が裏腹であることが、文章の行間を読む、といったかたちではなく、しっかり文章で書いているので、子どもにも理解がしやすく、心の変化をとらえやすいところがあります。

 

 だからこそおすすめしたいと思うのが、今回紹介する本になります。

 

 転校生の主人公の女の子がそこで偶然に出会った仲間たちと、町の人たちに向けて壁新聞を作ることになるのですが、町で起こった事件のナゾを追うことになっていきます。

 

 主人公として立っている女の子がいるのですが、並行して登場人物たちそれぞれの物語が動き出し、絡み合っていくのをハラハラしながらページを捲っていくことになるのが、高楼ワールドといいたくなります。この絡み合ってラストへ向かっていく展開が他の本でも見て取れて、そこに自分はとてもワクワクします。

 

 そうしたさまざまな登場人物の中には事件の犯人と呼べる、一般的にはあってはならない”悪”という存在が現れます。この悪の存在をどう描いているのか、というのが個人的にこの本の見どころです。

 

 多様な価値観を持った人たちがいるという話を前置きにしていますが、正義と悪というのは、履歴書の経歴に載るか載らないか、と同じような、どことなく2極化される印象があります。

 

 例えば人事をする立場の人は、100通来た履歴書に目を通すとき、出来れば車の免許がある人を採りたいと思えば、履歴書で車の免許を持っていない人というのは、脇によけて、それ以上に時間割いて考える時間は取らない可能性が大きいと思います。

 

 そういうものと犯罪とを同じ価値観に並べることはもちろんできませんが、人生が良くも悪くも死ぬまで続いていくと考えたときに、この紙の上での自分の経歴というものが、事務的に書かれたものでまとめられて、それ以上でも以下でもない、というのが切ないなと感じることがあります。そうしたモヤモヤに対して、作者の物語は、紙の上にはない部分を大切に扱っていることが感じられて、多分、自分は慰められているのだと思います。

 

 誰かを理解することって、どういうことなんだろうと悩んだときにも、なにかしらきっかけが掴めるのではないかと思います。と書いている私の感想は重たいかもしれませんが、どちらかというと明るいタッチで読みやすくなっており、大人ならさらっと一読できるのではないかと!

 

 それでは次回もどうぞよろしくお願いします。

 

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【おでん文庫】12月のテーマ ”ナゾ かいけつ?"

 こんにちは!本日、本棚の中身を12月テーマに入れ替えました。

 

 12月のテーマは

 ”ナゾ かいけつ?”

 です。今年最後に紹介するのはナゾを持ち込む本たちです。

 

 【本リスト】 ※12/3現在

  • 『トガリ山のぼうけん① 風の草原』
  • 『ニレの木広場のモモモ館』
  • 『夜の小学校で』
  • 『ファージョン作品集 5 ヒナギク野のマーティン・ピピン

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 『トガリ山のぼうけん① 風の草原』

 いわむら かずお 作

 ↓記事はこちら

山の頂上を目指して全8巻と続く旅 - おでん文庫の本棚


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 『ニレの木広場のモモモ館』

 高楼 方子 作 千葉 史子 絵

 ↓記事はこちら

解き明かされるのは心のヒダ? - おでん文庫の本棚


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 『夜の小学校で』

 岡田 淳 作・絵

 ↓記事はこちら

大人がみつけるワクワクの種 - おでん文庫の本棚


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 『ファージョン作品集 5 ヒナギク野のマーティン・ピピン

 エリナー・ファージョン 作 石井 桃子 訳 イズベルアンドジョン・モートン=セイル 絵 

 ↓記事はこちら

夢物語が始まる - おでん文庫の本棚

 

棚を借りている【南と華堂(なんとかどう)】さんの公式サイト↓

peraichi.com

 

 作品の紹介は追って記事化していきます。今年最後までどうぞお付き合いをよろしくお願いします。

 

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【おでん文庫】12月の本棚の準備



 こんにちは!おでん文庫の12月の本棚のPOPを作成しました。

 

 12月のテーマは【ナゾ かいけつ?】です。

 

 探偵もの?と、想像されるかもしれませんが、少しひねった切り口で読み応えのある本を揃えました。ナゾのある本は、この先にどんな展開が待っているのかが気になり、ページをめくる手が止まらなくなることがあります。年末の冬休み、大掃除がおろそかになってしまう危険のある本たちにゆっくり浸って楽しんでもらえたらと思います。次回の更新で本を紹介していきますね。

 

 そして、おでん文庫を始めたのが今年の2月のこと。おでん文庫の看板を抱えて年末まで迎えられそうでほっとしています。ブログを読んでくださっている方がいることが、とても励みになっています。ありがとうございます!

 

 今年もあと少しのお付き合い、どうぞよろしくお願いします。

 

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この本の面白さについて考えてみた

 こんにちは!めずらしく朝の更新です。昨日、SNSで早起きが苦手だとつぶやいたのですが、やることが詰まっているときと、図書館で借りた本の返却日が迫っているときは、なんとか起き上がります。今日の天気は晴れやかで、ほどよい冷気が肌に気持ちいいです。

 

 ではでは、本日紹介するのはこちらの本です。

 

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 『ふくろうくん』

 アーノルド・ローベル 作 三木 卓 訳

 

 がまくんとかえるくんシリーズの作者であるアーノルド・ローベルの味わい深い一冊です。作者の絵を見たことがある人は、表紙を見た瞬間に、ピンとくるのではないでしょうか。色の明暗を柔らかく表現していて、優しいですよね。それでいて、ふくろうくんの佇まいはなんだかユーモラス。夜の読書を連想させる絵というのがまた、じわじわと、どんな物語なのか好奇心がくすぐられます。

 

 それではと、いざ本を読んでみて考えるのは、これを描いたら面白い、みたいな作者の意識があんまり感じられない、という点です。ものつくりをする立場の人からしたら、主観で作らないのは当たり前かもしれませんが、客観的な目線でこう作ると面白いのでは、と閃いたのが、実は自分の主観で描いていることが自分自身、実際によくあります。自分が昔描いた漫画なんかは自己都合展開がくりひろげられて、描いてるときは面白かったはずが、後で見ると痛いです。

 

 この本はそうした作られた感じがなく、するりと読めます。そして、時間をおいても、また読みたくなる。一見、目立ったような派手さはないのに、どうしてだろうと考えます。

 

 というのも、グラフィックデザイナーである佐藤 卓さんの『塑する思考』という本を読んだことで、ものつくりの根本について気になっています。キャラクターも、佐藤 卓さんのものつくりも飾らないところがあります。

 

 佐藤 卓さんの物にとことん向き合っている姿勢から、ものを深く見ることができると、装飾が不要になっていくように思えてきます。本質を見極める目で世界を見ていくと、例えば物語ひとつを読むにしても、表に出てくるキャラクターの言葉そのものの意図を読もうとするのではなく、そうした言葉選びをするキャラクターのバックボーンに思いめぐらすのではないかと。

 

 例えば、企業の商品で使われているキャッチコピーが、言葉にバックボーンまで包括して伝わってくるもののひとつに思います。

 

 キャッチコピーですぐに思い浮かばれるのは、カルピスの「カラダにピース。」です。この言葉、誇大な表現もなしに、身体によい、そしてピースという表現にある溌剌とした明るさが出ていて、気持ちの良いメッセージです。

 

 このキャッチコピーをもし自分が作るのを任されることになったら、安っぽいキャッチコピーが出来上がること間違いなしです。自分の場合は、要素で物を捉えようとして、そこ止まりになってしまう気がします。

 

 例えば、白、乳酸菌、身体に良い、甘酸っぱい、健康、といった要素を組み合わせて言葉を作ろうと考えてしまいます。もしくは、白→ピュアと、要素からのイメージを連想して新たに語句を広めるといった手段をとります。

 

 そういう考え方もひとつ有りだと思いますが、今回考えるのは、この商品のバックボーンが何かということです。この商品をつくるきっかけとなった話を調べると公式HPで出てきました。

 

カルピス® | アサヒグループホールディングス

 

 このいきさつを知り、改めてキャッチコピーを読み上げた後に自分の並べた要素の見返すと、言葉が軽いというか、本質にたどり着けなさそうです。

 

 さらにこのキャッチコピーが秀逸と思われる点としては、こうしたいきさつを知らなくても、キャッチコピーで商品の価値を人に感じさせているところです。キャッチコピーがバックボーンとしっかり結び付き、表に出ている言葉は、その見えないバックボーンを滲み出している、その滲み出ているものを、人々は意識せずに感じとっているように思います。

 

 このキャッチコピーから滲み出ているというのが、この本でいうと、キャッチコピー=ふくろうくんの言葉、滲み出るバックボーン=ふくろうくんの人柄、です。

 

 ここまで考えてくると、骨太なキャラクターというのがどんなものか、さらによく考えてみたくなりますね。自分は表に見えるものをずっとこねくり回しているのが分かってきました。

 

 大人も子どもも、ちょこっと本を読みたいと思ったときに、この本はふと頭に上がってくるように思います。ちょこっと読書に最適で、しかも、何回繰り返しても面白く読めます。

 

 まだ説明が難しいですが、普遍的、という言葉を使ってよい物語だと思います。ひとまず、そういう本というのは、作者の主観で作られたものでないことは確かです。もっと、読めば読むほど、いろんなことが見えてきそうです。

 

 ということで、今回で11月テーマの”舞い込む”の本紹介は以上になります。そして、今頃になり『ふくろうくん』に何が舞い込んだのか描いていないことに気が付きました。ひとまず、その舞い込むに該当する物語は冬が舞台であることを書き添えておこうと思います。

 

 次回は今年最後の12月テーマを報告の予定です。12月にぴったりのテーマになっているはず!次回もどうぞよろしくお願いします。

 

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