おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

著者と動物の距離感

 こんにちは!5月もいよいよ締めくくりですね。道ではポンポンと鮮やかなアジサイを見かけるようになりました。そして、アイスクリームが食べたくなる季節にもなってきました。爽の冷凍みかん(この名前だったか怪しいですが、とにかくオレンジの味)が好きで、また食べたいな~。

 

 さて本日も前々回の記事から紹介している、こちらの本について書きます。今回でラストです。

 

 『北国からの手紙―キタキツネが教えてくれたこと』

 井上 浩輝 著

 

 前回は、本を通してその人の生き方に触れることについて書きました。今回はいよいよ被写体となっている動物について綴っていきます。

 

 本書の写真に登場するのは北海道に住む、人に飼い慣らされていない野生の動物たちです。動物たちの住処が人の暮らしからほど遠い場所となると、もはや未知の世界と言いたいです。これまで人の気配がない場所に足を踏み入れる機会も無ければ、野生動物との接触体験で挙げられるのは、子どもの頃にタヌキとモグラを見かけたくらいで、あとは周りでイノシシやコウモリが出た話を聞いても、へ~と絵空事を聞いているような実感の無さ。『不思議の国のアリス』でアリスがうさぎと出会いますが、そのくらい暮らしと自然が密接していたら、ファンタジーと思う領域が変わっていたかもしれません。

 

 実際、自然の中より人が暮らす場所で遭遇する動物の方が多いです。それこそペットとして猫や犬を飼ったり、道で散歩をしている人を見かけたりしますが、ゴールデンレトリバーのような大型の犬とすれ違っても、噛みつかれる、怖い、と恐怖を感じて避ける程のことはあまり有りません。頭の片隅には一応、もしかしたら急に牙をむいてくる可能性も想像しますが、自分にはあまり現実感が無く…。これが場合によっては、動物の本性を知らずに怖い思いをすることも。

 

 『ミス・ビアンカシリーズ 1 くらやみ城の冒険』に登場する、ねずみのビアンカは、ずっと人に飼われていたため、猫の怖さを知りませんでした。猫がねずみを食べる習性があることを知らず、人が飼っていた猫と仲良く暮らしていた経験から、猫はいいやつだと思い込み、ひとつ事件が起こってしまいます。猫の習性を知っているねずみからしたら大変な恐いもの知らずですよね。これは大げさな例かもしれませんが、想像よりも野生の世界は自分の暮らからは遠く離れていて、人と動物の世界を行き来するのは容易くないことを、本書を読み進めていくうちに知ることになります。

 

 著者はまるで、人の心があるような表情豊かな(特にエゾリスはチャーミングです)動物の写真を撮ります。そうした表情は、笑った顔をしたように見える柴犬が懐っこそうに見えるのと同じく、野生であることをころりと忘れてしまいます。

 

 大自然の中でケモノのケモノとしての生き方を写真で撮る方が、そこで写真を撮る理由も内容も筋道が通っていると思いそうですが、ケモノ対人間の構図で起こってしまう隔たりを写真で感じさせないのは、裏にどんな努力があったのか、本書に書いてある内容がとても深いです。

 

 ふと思い出したのですが『ぴくぴく仙太郎』という漫画をご存じの方はいるでしょうか。紹介文で、独身男がうさぎを買うのは危険だと警告しているのが、ちょっと面白いですが、うさぎとの暮らしが面白おかしく、ときにはほっこりと描かれています。

 

 うさぎの仙太郎が足をばしばしと地面にたたきつけて自己主張しているシーンなどを見ると、寡黙な生き物と思っていたうさぎにも、行動で感情を表現していることがあるのだと知りました。そうした仙太郎のボディーランゲージで、主人公は仙太郎の行動や感情を読み取っていくのですが、そうして人の方から動物の感情を読み、動物に歩み寄り、心を通わていく姿は、紹介している本の著者と重なりました。

 

 ここからは蛇足となりますが、こうした野生の世界を知った際に、自分は動物のことをよく知らずに絵に描いてしまっているなと悩みました。特に、擬人化について。著者がまるで擬人化したような動物の写真を撮れたのは理由があって、なんだか著者の域にたどり着かないのに、絵でカバにスカートをはかせたりする(極端な表現ですが…)のが全くしっくりせず、ずっと、動物を擬人化することについて考えていました。

 

 それからしばらくは、擬人化せずに、動物は鏡であるかのように、自分の思惑がそのまま、動物のまっすぐな瞳から反射して映し出されている。つまり動物自体は無垢な存在で、描いている自分が動物に対して何かを決めつけずに、見る人次第で受け止め方が変わる、そうした捉え方で絵を描いていました。

 

 思い煮詰まって、最近はどうして擬人化をするのかを考えながら擬人化を描いてみたりもして、この間、深夜のふやけた頭で鳥を描いたときに、なんだかそこに人の暮らしに重なる情景が浮かび、気が付いたらピアノを台にしてクリームソーダをストローで飲む思いふけった鳥嬢が出来上がっていました。スカートも履いています。鳥を鳥として描くのではなく、鳥っぽい別の生き物、現実にはいない存在として割り切り、容姿もデフォルメを利かせたら、その独自の世界観が広がって頭の中で物語が浮かびそうでした。

 

 まだうまく答えの出ない問答ですが、動物を描くことについて立ち止まるきっかけとなった、それくらい、本来の動物の姿とは何かと考えさせられたのでした。著者のように、動物と向き合っていく中で、答えを出していきたいです。そして自分の良くないところとしては考えることが大半なので、もう少し実際に動物に会いに行こうと思います。

 

 ではでは、次回は別の本の話か、雑記を挟もうと思います。またどうぞよろしくお願いします。

 

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