おでん文庫の本棚

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イギリスの作家 アリソン・アトリーの本紹介

 こんにちは!スマホの写真のフォルダを見返していたら、たくさんのブタ関連の本のブックマークが出てきて、当時の自分が何を考えていたのか思い出すのに数秒かかりました。そういえば、現在おでん文庫の本棚テーマになっている『おめでたこぶた』シリーズを”ブタ”をテーマに展開することも考えていたのでした。またいつかブタを必要とするときのために、写真はこのまま残しておこうと思います。

 

 さて今回は『おめでたこぶた』シリーズを含めて、アリソン・アトリーの本をいくつか紹介していきます。

 

 まずは、『おめでたこぶた』シリーズについて。

 

 アリソン・アトリー 作  すがはら ひろくに 訳 やまわき ゆりこ 画

 『おめでたこぶた その1 四ひきのこぶたとアナグマのお話』

 サムは4兄弟の末っ子で、兄のトムとビル、姉のアンがいます。そこにかしこいアナグマのブロックさんも一緒に、かやぶきの家に暮らしています。周囲は豊かな自然と動物たち、すこし離れたところには人間も暮らしている土地で、楽しくて不思議な日々を送ります。サムはときに無邪気で無鉄砲、そのためさまざまな出来事が舞い込んできます。

 この巻では6つの物語が収録されています。兄弟やアナグマさん、それに動物や人間や不思議な存在が登場したりと、作品の傾向を掴むのにぴったりの一冊です。自然の中を駆け回るこぶたが想像の中で元気に駆け回ります。パイやケーキ、チーズやプリンなど、美味しいたべものの登場も見逃せないところ。

 

 『おめでたこぶた その2 サム、風をつかまえる』

 この巻も6つの物語が収録されています。風と追いかけっこをしたり、靴の妖精や魔女、龍が登場して、ファンタジーの色が濃く賑やかです。アイルランド人も登場するのですが、こちらが訳者の巻末の補足で、アリソン・アトリーが生きていた時代背景も含めてアイルランド人についての解説をしています。アリソン・アトリーの実体験を反映した『農場に暮らして』と関連付けて解説されているので、これから読もうと思っています(間に合わなかった…!)。

 

 『おめでたこぶた その3 サムのおしごと』

 人間の住む場所にサムが足を運び、てんやわんやする全6話です。優しい農場主のグリーンスリーブスさんや、手まわしオルガン弾き、台所で働くひとたち。こぶたと人間が当たり前に言葉を交わしている世界観は、ほのぼのします。人の暮らしの様子から立ち上がるイギリスの雰囲気も味わうことが出来ます。

 

 『サムとぶらぶら またまたおめでたこぶた』

 シリーズ最終巻です。全8話が収録されています。1巻から読み進めてここまでたどり着くと、読む前から終わりのさみしさがやってきました。とはいえ、物語はやっぱり、妖精と出会って危ない目にあったり、学校へ潜入したり、美味しそうな食べものの登場と、賑やかで楽しい日常が綴られています。

 

 この『おめでたこぶた』シリーズの前にも、こぶたのサムの物語を日本で翻訳・出版した本があります。

 

 『サム・ピッグだいかつやく』『サム・ピッグおおそうどう』

 アリソン・アトリー 作  神宮 輝夫 訳 多田 ヒロシ 画

 どちらも1967年に初版が出ています。『おめでたこぶた』シリーズは1巻目が2012年が初版なので、半世紀近い時間の開きがあります。そもそも原作は1939年に始まり、もうすぐ100年という時を迎えようとしています。それなのに今にも通じる物語の展開によって、古さを感じることがあまりありません。サムの活躍をさらに読みたい、となったときはこちらも併せて読むのをおすすめです。

 

 その他にも動物が擬人化されて登場する物語があります。

 

 『グレイ・ラビットのおはなし』

  アリソン・アトリー 作 マーガレット・テンペスト 絵 石井 桃子 / 中川 李枝子 訳

 心が優しいグレイ・ラビットは、一緒に住むリスのスキレルと野ウサギのヘアに振り回されながらも健気に暮らしています。森に住む動物たちとも交流しながら、3匹の関係に変化が現れてきます。こちらは、ファンタジー要素よりも、自然の中に身を置く暮らしを丁寧に描く方に比重があるように思います。時にその情景が美しく映ります。世界観に没頭できる綺麗な絵も素晴らしいです。

www.iwanami.co.jp

 

 ファンタジー要素の強い物語集もあります。

 

 『妖精のスカーフ』

 アリソン・アトリー 作  神宮 輝夫 訳 つぼの ひでお 画

 5つの物語が収録されています。スカーフや時計・鍵といったモチーフをからめて、不思議なことが起こったり、動物や虫たちの友情などが見所です。訳を担当している神宮 輝夫さんが書く『こまったさん』『わかったさん』シリーズが好きなのですが、そういった、日常と異世界のものが出会ってしまう物語の展開は、読み終えた後に心がどこかに連れていかれたような感覚を残します。

 

 『西風のくれた鍵』

  アリソン・アトリー 作 石井 桃子 / 中川 李枝子 訳

 6つの物語が収録されています。命を吹き込まれた雪のむすめ、妖精と結婚する人間の女の子など、恋がからむ切ないお話も収録されたロマンチックな物語が印象的です。『妖精のスカーフ』と被る物語もあるので、ロマンチックな余韻が好きな方はこちらの本を先に読むのをおすすめです。

www.iwanami.co.jp

 

 以上になります。上に上げた本はアリソン・アトリーが数多く残した作品の一部ですが、それでも豊かな作風を感じられると思います。そして、流れ続ける湧き水のようにたくさんの物語を書いている(ようにみえる)ことへの尊敬の気持ちも抱きます。著者が幼少期に過ごしたイギリスの田舎での暮らしと、これまで口伝えで残されてきた物語を土台にしたといっても、これだけの作品が生み出されていくことは簡単にそうかと納得するのが難しいです。

 

 50年以上も前の物語を今でも楽しく読むことが出来ることを考えると、アリソン・アトリーが描こうとしたものに普遍的な要素が含まれているような気がして、そのあたりをさらに本を読みながら考えていきたいです。

 

 おでん文庫の本棚は来週の6月頭にテーマが入れ替わります。次回は”霧と幻想”がテーマになります。しかし置きたい本が大きくて、棚に並べられるかが心配であります。

 それではまた次回もどうぞよろしくお願いします。

 

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