おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

誰かの人生を読むことについて

 こんにちは!やることがいろいろ散らかると、机の上も散らかるもので、今周りが紙にまみれています。このブログを書き終えたら片づけなければ。

 

 さて本日は前回の記事に続いて、こちらの本を紹介します。前回の記事はこちら↓

考えるよりも先にくるもの - おでん文庫の本棚

 

 『北国からの手紙―キタキツネが教えてくれたこと』

 井上 浩輝 著

 

 前回の記事では、写真と対峙したときのお話をしました。飯テロ写真をみて突如としてお腹の虫が目覚めたときのような反射速度で、思考を差し置いて、感覚がなにかを捉えて反応している、傍からみても頭の中も沈黙の時間が訪れることがあります。こんなとき、どんな言葉が適切なのか考えてみますが、感慨にふける、感傷に浸る、といった黙考の時間を、頭の中を真っ白にして、ただ目の前のものと対峙している時間、う~ん語彙力が乏しくてうなり声しか出てきません。

 

 そういえば、こうしてブログに紹介している推しの本が売れて、さようならをすることになっても辛くないのか、といった質問をいただく機会がありました。潔いことを言うなら、我が家の本棚でほこりを被るよりも、本を読んでもらえる機会に繋がる方がよかろうと思っています。箱入り娘を旅立たせると、別れの寂しさよりも、その後にもたらされるお土産の方が実際嬉しいです。

 

 本棚の在り方について、福田 伸一さんの『せいめいのはなし』で内田 樹さんが語られていた内容に、自分もわずかばかり似た性質を感じ取ったのですが、ではいづれ手元にある本たちはどうするかというと、もしお似合いの人が現れたらあげたくなっちゃいますね。本を見て顔が思い浮かぶのは自分の勝手で、相手は迷惑千万の可能性もあるので、そこは推し活の難しいところですが…。ブログは、そういう意味ではのびのびと推し活できてありがたいです。

 

 それではさてさて本題です。本日紹介する本については、写真家になるまでのサクセスストーリー、そして動物との向き合い方の2つに注目しよう思います。

 

 ちなみに写真家という職業のイメージは、まだスマホで写真を撮るのが当たり前になるよりも以前は漠然と、高級なカメラを携えて高尚な芸術を追い求める(ちょっと気難しい)芸術家と思っていましたが、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか写真家の方の、レンズを通して対象となる人物の内面を描き出す、といったような言葉を聞いてもピンと来ず、写真を見たときの感じ方を意識しすぎて、自分の感性が乏しいのだなと思うこともありました。

 

 これは後になって、対象とする写真の被写体、もしくはその媒体など、その要素を取り巻く世界に足を踏み入れて少しづつその環境に馴染んでいくと、分かってくることがあるのだなと思うようになりましたが、例えばSNSで日本語で発信されている情報と、知らない言語で書かれた情報とどちらに目がいくかといえば日本語となるように、自分を取り巻く環境に近い、もしくは親近感を覚えるものがあるほど目がいきますし、理解しやすいです。

 

 そうなると、自然や動物という題材には、あまり年齢の制限もなく、幅広い層にも受け入れられやすい面があるように思います。尚且つ、この本で舞台となるのが北海道となると、関東住まいの自分にとっては、まだ知らない北海道への好奇心が加わります。余談ですが、北海道出身の作家さんが表現する動物や自然の描き方は、なんだか魅力があるのですよね。北海道に対する羨望や興味のフィルターが自分にはちょっとあります。

 

 そうして無理のない流れで動物や自然を被写体とした写真家の方に惹かれていったのかもしれません。後にも取り上げる予定の写真家の大竹 英洋さんについても、今回の井上 浩輝さんについても、写真家になることを決意してから写真家の一歩を踏み出すまでを書かれた本を読みました。井上 浩輝さんは今回紹介している本がそれに当たります。

 

 ではこの本を写真家を目指している人におすすめしたいのか、と聞かれたら、いやもっと、どんな人が読んでも思うところのある本だと思います。

 

 そう思うのも、自分は遠回りに費やした膨大な時間があり、覚悟が決められなかった分岐点をそれなりに抱えてしまっていて、それと比べて著者の覚悟を決めてからまっすぐの道を行くことを貫いた姿勢は、なかなか出来ることではないと分かるからです。

 

 成人をしてから将来の夢(職業)を決めてそこを目指すことってナカナカ難しくありませんか。日経WOMANなどを読んでいると、例えば資格取得や、設立した企業が波に乗るなど、きつい山を越えた人たちが多くいることを知りますが、それでいてつい、すごいなぁという一言で締めくくってしまうことがあります。ほんとはそんなに薄っぺらな感想に収まらないことのはずなのに。

 

 何かを成している人が、例えば身近にいたらどうでしょう。身近にいる人ほど、その人の山あり谷ありを知り、山の上にたどり着いた際には拍手を送りたくなるものじゃないかと思います。山の上の景色を眺めながら、そこにたどり着くまでの道のりを振り返ったときに、いろんな思いが駆け巡るように思います。山を登ることを目指してから頂上に着くまでの時間の濃度が、本の中には詰まっています。

 

 ここには物語とは違った、筋書の無い人生が広がっているので、それこそ山ばかりではなく、谷、谷、谷、が続くこともあります。自伝などを読んでいると、現実の方が厳しいと気が付きます。打開しがたい困難や悲しみに自分の方が打ちのめされてしまうこともありました。成功の裏の谷、ダークサイドに落ちずにいられた人たちの心の強さを見習いたい、と奮い立たされて自分は今に至っています。

 

 今回紹介する本は、谷底にもひとすじの光のような救が現れるので、読んでいてホッとします。それでも苦労は人知れずなはずで、それでも前を向く姿勢を貫く著者の人となりがあればこそなのだと思います。写真だけではなく読み物としても、それこそ大人になる前の人たちへも、おすすめしたい一冊です。

 

 ではでは次回もこの本について、もう少し書いていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

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