おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

前回に続いて『ハイジ』の話

こんにちは!最近は、まだ日差しは暑いものの涼しい風がひゅんと駆けってゆき、秋到来ですね。

日本語には秋に関連した、秋思(しゅうし)という言葉があるそうです。

物思いにふける秋。

秋は"深まる"という表現もあり、自分の内側に向き合う期間なのかもしれません。

自分がゆっくりじっくりなところがあるので、この焦りのない雰囲気が心地よいです。

 

さて今回は、他のスイス作品を紹介しようと思っていたのですが、『ハイジ』について書かれていた本で印象的だった

矢川 澄子 作『わたしのメルヘン散歩』

こちらを書き留めておこうと思います。

 

著者は『ハイジ』や『若草物語』など有名な作品を含めた多くの児童文学の翻訳をしています。

ちょうど今読んでいるスイスの作家エルンスト・クライドルフの絵本でも、名前を拝見しました。

児童文学の本を色々読んでいるうちに、きっと出会える方だと思います。

著者自身の本があるとは知らず、偶然カフェの棚で見つけて手に取りました。

 

この本では、児童文学に携わった著者が、『大草原の小さな家』、『若草物語』、『アリス』などの作品を生み出した原作者の生い立ちと作品との足並みを追っています。

足並みと言うのも、作品の主人公や取り巻く世界観が、原作者の経験や人格と結びついていることを強く感じるためです。

 

はっとさせられたのは、この本では「原作者が息子の病気の療養のためにスイスに訪れ、その時の経験が作品に反映されている」といった状況分析を踏まえつつ、著者が原作者にかなり歩み寄っていることです。

風邪であることを、医者が体温とのどの腫れで診断する、といった外からの分析ではなく、著者は風邪を引いた本人であるから熱があると体感として分かる、とでも言う様な、原作者と共鳴している様子を読み取れるのです。

 

自分の中ではハイジというキャラクターは、物語の中を生きているキャラクターでした。

天真爛漫で、いつも誰かを思って行動する姿、持ち前の明るさが天使に見えて、精神的に崩れてしまうという展開が無ければ尚更、現実感より理想像が勝っていると思っていました。(世の中に良い人いっぱいいるだろうに、擦れた考えですみません)

ただ、作られたキャラクターに心を掴まれることがあるのだろうかという謎も心のどこかに引っかかっていたのだと思います。

著者は本の中で、原作者とキャラクターの繋がりをはっきりと書いており、その瞬間になるほどと腑に落ちたのでした。

 

物語を読んだ後に解説や分析を読みがちな自分にとっては、著者は生身の原作者を見つめて、血の通った作品に歩み寄っている印象を受けて衝撃的だったこの本を、もし図書館で見かけたら手に取ってみてほしいです。

 

余談で、この感想を書きながら、本自体の見所は違うところにある様にも思えて、私の感想は少しずれているところがあるかもしれませんが、今の自分の感動ポイントはここだったというほんの一意見として聞いて頂けたら幸いです。

 

また次回も、どうぞよろしくお願いします。