おでん文庫の本棚

大人もこどももみんなで味わう児童文学をご紹介

夏の絵本 そして、心が元気を取り戻す、スイスの物語

こんにちは!前回から期間が空いてしまい、気が付いたら夏真っ盛りですね。

 

夏らしいことはあまりしていないのですが、昨年に読んでずっと印象に残っていた、マックロスキー作『海べの朝』を手に入れました。

 

海辺に住む家族の当たり前の一日を、ほんのちょっとした特別がきらりと光らせます。

 

とはいっても、私にとっては地に足をつけた暮らしが365日当たり前なので、海辺の暮らしという非日常自体に関心が向かい、羨望のまなざしを注いでしまいます。

 

ボートのエンジン音、溶けるアイスクリーム、照り返すコンクリート、濡れた砂に足をとられる感覚。

 

思い出にある断片が、物語にちりばまれたピースに、ひとつひとつ反応していきます。

 

そうすると、外出することが少ない昨今だとしても、本を読んでいるうちに、思い出の中にある夏が浮かび上がり、物語と経験を重ねて疑似体験するといった考え方もありなのかも、と思います。

 

今回、主に取り上げたい本も、コロナが流行り始めて、これまでの暮らしが突然奪われてしまった時に、その不安を、本の中の体験を通して持ち直すことが出来たお話になります。

 

最近では、コロナによるインドア生活にも、少しずつ楽しみを見つけられるようになってきましたが、それまでは休みの日となれば、外に出てひとまず気分転換したがる様な、落ち着きの無いところが自分にはあったので、初めての緊急事態宣言では、”外に出てはいけない”という縛りに、それがいつまで続くか分からない不安と、気持ちの逃げ場を失った黒いもやが、体の中に溜まっていく感覚がありました。

 

そんな時に、偶然Amazonプライムビデオで目に止まったのが、ヨハンナ・シュピリ原作『ハイジ』の実写映画でした。

 

青空の下で艶やかに緑が光っていて、急なとんがりを見せる山々は、遠くで青空に溶けている光景。

 

そして、素朴で美味しそうな、パンやチーズ、ヤギのミルク。

 

解放感と、そのまま映像に釘付けになり、ハイジの世界に没入していったのでした。

 

映画を観終わった後、これまでの自分は、ハイジと聞いてもアニメを放送していたことを知っているくらいの知識だったので、これはすぐに原作本を読もうと思い立ち、本屋さんへ直行しました。

 

(映像を観た後に本を読むのは、内容にギャップを感じて抵抗が出るかもと慎重に考え、上下巻の上巻のみ買ったのですが、結果としてすぐ下巻も購入していました。)

 

本を読んでよかったのは、登場する人物の持つさまざまな暗い部分を、ハイジが持ち前の明るさと思いやりで、あたたかく照らしていく姿を、より丁寧に追えたことです。

 

ペーターのおばあさんやお医者さん、おじいさん、みんなハイジとの出会いで思いがけず、良い方向へ向かっていきます。

 

特に、足を悪くしてずっと歩けなかった都会育ちの少女クララが、最後に歩ける様になるまでの一連は、読みながら自分も元気を取り戻した様に思います。

 

クララが歩けなかったのは、心因的なものが原因で、本当は歩くことが出来るはずなのに、ずっと歩けないままでした。

 

しかし、アルプの山小屋へやってきて、ハイジと過ごすことで状況はすこしずつ変化していきます。

 

それまでのクララは、都会で暮らしていて不自由はなく平穏な日々を送っていますが、何かに胸を膨らませる様なこともなく、淡々とした日々が過ぎていくだけでもありました。

 

それが、ハイジと出会うことで、経験したことのない世界を知ることになります。

 

山小屋での暮らしは、燃える朝日と共に目覚めて、輝く星々に見守られて眠りにつきます。

 

外には美しい山々が連なり、草原にはヤギが草をはむ姿が見え、そのヤギのお乳から作られるチーズやパンを食べます。

 

次の日がどんな一日になるか、想像もつかないような毎日が待っていることに、胸が高鳴ります。

 

そうしてクララは、豊かな自然の生命力を全身で感じ、生き生きとした少女に変わっていきます。

 

最後には、自分の力で立って歩くことが出来る様になる、この大きな心境の変化に、読んでいて驚かされるのですが、クララが辿った道筋は、多少なりにも今の自分の状況と重ねて、励まされるところがあります。

 

なんどでも花を咲かせる植物の生命力、空にはずっと太陽や月が変わらず照り続けて、今飲んでいるミルクは、すぐ近くに生産者が見えなくても、それはどこかで牛の乳を搾って生まれたもの、それらの身近にある当たり前が自分の元気を作ってることに気が付きます。

 

そうして、コロナで塞ぎ込んでいた気持ちが、なんとか大丈夫かもしれない、と思える様になりました。

 

ハイジの作品にある、心の元気を取り戻すきっかけを、読んでいる方も見つけることがあったら嬉しいです。

 

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次回は、ハイジ繋がりでスイスの作家のことを書こうかと考えています。

 

また、いつか主人公のハイジについて、スイスについても文章をまとめられるように、本をいろいろ読んでみようと思います。

 

次回もよろしくお願いいたします。