おでん文庫の本棚

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アロイス・カリジェの絵本② 少女と小鳥の心あたたまる物語

こんにちは!今構想している、いつかこのブログで記事にしたいと思っている作家(ドイツ生まれのスイス国籍)、ヘルマン・ヘッセ

車輪の下で描かれる深刻な自己の抑制と喪失にとても衝撃を受け、その後、彼について書かれた『評伝ヘルマン・ヘッセ(上)-危機の巡礼者』ラルフ・フリードマンを手に取り、あと少しで読み終えるところまで来ています。

家族や友人宛にたくさんの手紙を残したヘルマン・ヘッセの言葉から、その時々の精神状態を細かに分析していて、この作品が生まれた背景も知ることが出来ます。

ヘッセは多感で繊細であり、心は波のように不安定、とはいえ本当にどうしようもなくなる一歩手前を理性的に解決しようとする姿が、作品のテーマにも繋がっています。

自分の暗い部分が恐くなる時には、ヘッセの生い立ちと物語とを一緒に知るのをおすすめしたいです。

 

ヘルマン・ヘッセについて詳しくはまたいつかで、今回は、ゼリーナ・ヘンツ(文)とアロイス・カリジェ(絵)の絵本第2弾

『フルリーナと山の鳥(FLURINA UND DAS WILDVÖGLEIN)』

について書いていきます。

 

それにしても、フルリーナという名前、鈴を思い浮かべる響きがかわいいです。

物語に出てくるフルリーナも、純粋で思いやりのある心を持ったかわいい女の子です。

 

舞台はスイスの、普段暮らしている町から山を登ったところにある、『ハイジ』でいうアルムじいの小屋にあたる場所になります。

スイスは、牧畜業をして生計を立てている人を物語でよく見かけます。

そういった場合、雪が解けて現れる潤沢な草は、草食動物たちのご飯となってくれます。

なので、物語の中では、家畜のにわとりや牛、ヤギを連れて家族4人(お父さん、お母さん、ウルスリ、フルリーナ)が夏の小屋へ移動するところから始まります。

 

草花が生い茂った輝かしい自然の風景は、『ウルスリとすず』を読んだ時と違った、生き生きとした感情を湧き上がらせます。

また、フルリーナの赤い服と髪を結うリボンが、可憐に物語の中を動きまわります。

 

フルリーナが自然と遊ぶ姿が詩的で、序盤から心を掴まれるのですが、重要なのはここで出会う小鳥との物語となります。

偶然の出会いから、自分にとってどんどん大切な存在になっていく小鳥のために、時には勇敢にもなれるフルリーナ。

フルリーナの深い愛情に触れて、読む側にもあたたかい気持ちが広がります。

しかし、次第に小鳥の願いに気が付いていくにつれて、少女の中に葛藤が現れます。

ちょっと余談ですが、不安がよぎるタイミングというのが、ふとしていて、感覚的な不安というものを読者に察知させる書き方がとても巧みだと思います。

(その時の絵がとても美しくて、胸がきゅうとなります。すごく好きです。)

小鳥の願いは、少女には辛い選択です。

大好きだからこそ相手のために、と実際に行動するのは本当に難しいことだと思います。

する・しないという2つの行いの結果ははっきりと分かれますが、心がその結果を後悔もせずしっかり前を向いていけるかというと、実際はもっと複雑です。

そんな弱さを持ち合わせていることは、恥ずかしいことでもないし、むしろいじけずに健気であるように感じます。

なので、後半で出会うことになるものは、フルリーナの透き通ってきれいな色の心、それがかたちであらわれたのではないかと思うし、小鳥からの素敵な贈りもののように思いました。

 

そしてもうひとつ、ウルスリが1作目ではやんちゃな子どもだったのが、今作ではフルリーナを優しく見守り、そして手助けをします。

いつの間にか成長しているウルスリの姿をみて、はっとさせられます。

 

この絵本を読むと、夏の美しい景色と心あたたまる物語に、うっとりとした気持ちにひたります。

そして絵について、前作はワンパクで、今作ではロマンチックな挿絵を描く、その表現の幅には感動します。

『ウルスリとすず』と本作を両方読む際の、見どころのひとつです。

 

それでは次回は、ウルスリとフルリーナのきょうだいの物語である『大雪』について書こうと思います。

ウルスリとフルリーナについて書かれる本は次回を含めて3部作となっています。

作品ごとに描かれるテーマが違ければ、季節もさまざま(『ウルスリのすず』はおそらく春、『フルリーナと山の鳥』は春、『大雪』は冬)で、読み応えのある3部作です。

また次回も、よろしくお願いします。